ドクターインタビュー

英ウィメンズクリニック 水澤友利医師|たくさんの引き出しを持つ医師になりたい

6組に1組が不妊治療を受けると言われる日本。

妊活や不妊治療の現場の医師たちは、どんな想いを持って最前線に立っているのでしょうか。

普段は語られることがない、ドクターのパーソナルストーリー、第7話は、最先端の医療設備を備える英ウィメンズクリニックの水澤友利医師です。

現場の最前線に立つと、見えてくるのは十人十色の人生──。

水澤医師は一人一人の患者さんの思いを尊重し、選んでよかったと思える治療を提供したいと話します。水澤医師がそのような願いを強くした経験とは、どのようなものだったのでしょうか。

東京女子医科大学卒業、慶応大学医学部産婦人科教室に入局。慶応大学で不妊治療のトレーニングを受け、その後、東京の荻窪病院で、一般不妊治療および高度生殖医療に従事する。2009年7月より英ウィメンズクリニックに勤務。2010年8月より英ウィメンズクリニック医長。2012年8月より内分泌・代謝部門部長に就任。趣味はアクセサリー作り、映画鑑賞、旅行。

生命の誕生を手助けする仕事

私が医師になったのは、父が眼科の医師だったことが影響しているかと思います。他の職業を見る機会が少ないということもありましたが、中学、高校と卒業するうちに「私も医師の方向」へと決めていました。

医学部に入ってからは、手術に関わるところに行きたいと思っていまいした。というのも、とても手技が好きだったので外科系に行こうと考えたのです。

けれども、消化器外科、心臓外科と回って見たのですが、長時間の手術が自分にはあまり合っていないように思えました。短時間で手術をして患者さんが元気になっていくのを見ることができる場所が自分に合っていると感じたのです。

産婦人科も長い時間かける手術はありますが、良性腫瘍は短時間で終わって患者さんが元気で帰る人が多い。そこで、産婦人科で医師を目指したのです。

不妊治療に関しては医大の時は詳しくわからなかったのですが、研修の時に産婦人科の先生が教室を出て、サクッと何かやって戻ってきました。こっそりと覗き見しに行くと、生殖医療をしていたのです。

教科書では不妊治療について習ってはいましたが、何か特別なものをやっているという感じがして非常に興味がわきました。婦人科に勤めたいとは思っていたのですが、この医師たちが「生命の誕生を手助けする瞬間」を垣間見て、不妊治療にはまっていきました。

生殖医療というのは、顕微鏡、培養器の中でしか細胞が進化しない。その小さな世界に神秘性を感じました。超音波で子宮の中にいる赤ちゃんの観察とは違う異次元の医療なのです。

進化が進む生殖医療

生殖分野の技術革新もどんどん進んでいます。生殖医療にたずさわるようになって、十数年見てきていてすごいなと思ったものの一つは「タイムラプス」の技術です。

卵子や受精卵を観察して成長具合が見られるようになり、その卵子の質が評価できるようになりました。また「着床前検査」というものもあります。体外受精で得た受精卵の染色体を調べて、異常のないものを子宮に戻すという手法で、これは賛否両論あるものの流産を何度も繰り返す人が減っているのも事実です。

また顕微授精の中で、「ピエゾイクシー(PIEZO ICSI)」と言って卵子の細胞膜を振動で破って精子を入れる方法があるのですが、従来よりも卵子に対するダメージが少なく、高齢の方も胚盤胞の発生率が良くなっていくというのもあって、患者にとって大きなメリットが生まれる方法でした。

その他、排卵誘発方法関して、プロゲステロンを使って排卵誘発する方法も画期的です。これまでは採卵工程において、排卵抑制の注射を打つなどしかなかったのですが、注射でなく内服薬で簡単に対処できるようになりました。

つまり、治療を受ける側の負担がグッと減るわけですね。私たちも常に患者さんにとってメリットになる技術には注目しています。

選択肢があることを知ってほしい

本当に、たくさんの人を見てきました。必ずしもみなさん、妊娠・出産に結びついたという方ばかりではないんですよね。本当に何度も流産を繰り返して出産される人、治療を何度もしても残念ながらダメで諦めた人もいらっしゃいます。

自分は治療を提供してきて、決して患者さんが望むハッピーエンディングでない夫婦の生き方をみさせてもらっていると思っています。

私が診察した患者さんのなかで、病気で自分の卵子ができない女性がいました。何とか自分で赤ちゃんを妊娠、出産する方法がないだろうか相談したいとおっしゃいました。そこで、一緒にとことん突き詰めて、卵子提供という考えを選択にたどり着いたのです。

日本では日本国内の匿名の第三者からの卵子提供はできないので、その患者さんは海外で卵子提供受けて、子どもが誕生しました。子どもが生まれてからもクリニックに来てもらって、「あの時に一緒に選択肢を考えてくれて、ありがとう」と言われたことがあるんです。

第三者からの卵子提供、精子提供というのはさまざまな問題があります、だから簡単なことではありません。

子どもが育っていくときに、どのように生まれてきたことを伝えるのか。子どもが卵子や精子を提供した「生物学上のつながりのある人」は誰なのかという疑問を持った時にどのように話すのか、問題はたくさんあります。

そんな課題も全て受け入れて、幸せに生きていく家庭を作った方でした。

この方はだいぶ前に出会った患者さんです。卵子の提供は海外のエージェントを通して行いますが、当時は選択肢は合っても決断する人はまだ少ない時代でした。ただ、私としては「卵子提供という治療、選択があるけれどもどうですか」とお話しました。

選択肢があるということを知って欲しかったのです。

一人一人の思いを尊重したい

その女性とは生まれてくる子どもとどう向き合っていくのかお話しました。

自分がどのように、そして誰から生まれてきたのかを知る、「出自を知る権利」というものが大切だということもお伝えしました。普通に生きていたら、自分がどこから来たかということは、あまり考えることがないかもしれません。

私は、慶應大学の産婦人科にいた時に、第三者の提供精子で生まれる子どもの「出自を知る権利」の大切さを学びました。

当時は慶應義塾大学産婦人科教室で、今は東京医科大学産婦人科教授を務めていらっしゃる久慈直昭先生や、ニュージーランドのカンタベリー大学のケン・ダニエル先生から教えてもらったのです。そのため、前もって知識や情報を提供できたのです。

どんな選択する人も、その御夫婦の思いを持って治療をされておられるはず。だからその一人一人の思いをできる限り尊重したいと思うのです。

たくさんの引き出しを持つ医師に

もう一人、別の患者さんで流産を繰り返した女性がいました。不育症で妊娠後に胎児が育たず、赤ちゃんをさずかることができなかったのです。

その患者さんが、他の病院の先生にご相談に行き、そこで不育症治療を併用しながら当院の生殖医療で、8年越しで妊娠、出産に至ったということがありました。

この治療法は「免疫グロブリン療法」というものです。その治療は日本でできる施設は限られていて、高額でもあったのですが、その患者さんはトライして成功したのです。本当に感動しました。

それと同時に、この治療に至るまでにはいくつかの検査があり、その検査をすればこの治療が効く可能性を、もっと早く気づけたかもしれないと感じたのです。このケースをきっかけに、私のクリニックでも検査項目を増やしたりしました。

一旦効果がないとされた、または使われなくなった治療も、改めて振り返ってみる必要性も感じました。使われなくなった技術は使えないという先入観を持つのではなく、常に技術のアップデートをしていくことがとても重要なのです。

治療をしていて思うのは、残念ながらみなさんが100%妊娠できないということです。けれども、できる限りのサポートはしたい。いつでも引き出しをたくさん持っている医師になりたいと常に思っています。

どんな患者さんであっても、私たちのクリニックにいらして、「ここでよかった」、「ここで不妊治療を経験して意味があった」と思えるような治療を提供したい。

子どものない人生を送ったとしても、治療の経験が十分に価値があり、治療してきたことに価値があったと感じてもらえる治療を目指したい、そう思って今日も現場に立っています。

 

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