ドクターインタビュー

松本レディース IVFクリニック 松本玲央奈理事長|向き合う診療、さらに社会へのアプローチで不妊治療に取り組む

松本レディース IVFクリニックは、豊島区で20年以上続く不妊治療専門の松本レディースクリニックの外来専門院として2023年10月にリニューアル・オープンしたばかりです。松本玲央奈理事長は、「ご納得いただける診断や治療を提供すること」をモットーとしています。患者の状態に合った診療を提供するために、専門的な知識・経験を有した多くの医師を迎え、多方面からアプローチできる環境整備と一人ひとりに丁寧に向き合う診療を大切にしています。また、クリニックの診療だけでなく、社会から不妊治療に取り組みやすくなるように、フェムテックの活動にも参画されています。

松本理事長が産婦人科医となり、生殖医療に携わるようになった経緯やクリニックの特色などをおうかがいし、女性へのメッセージもいただきました。

祖父、父の背中を見て生殖医療の道に

私は、祖父と父が産婦人科医で、いわば三代目です。祖父は太平洋戦争中に軍医として召集された経験があり、戦後の日本の荒廃を目にして、安心して子ども出産できる場所をつくらなければならないという強い使命感に駆られて周産期医療に専念しました。

私の父が医師になって間もない頃は、日本ではまだ体外受精などの不妊治療は始まったばかりでしたが、父はその当時から今後、不妊治療の重要性が増すことを予見して研究を開始しました。今日では約11人に1人(2021年時点)が体外受精で生まれる時代となり、都内の小学校でいえば、1クラスに3人程度いる割合となっています。

現代では不妊治療は一般的に受け入れられていますが、父が生殖医療に携わっていた時代は、体外受精に対する肯定的な意見はまれで、「神様につばを吐きつけるような行為だ」と同僚の医師からも言われるような時代でした。そうした背景の中でも、父は自分たちの行っていることへの社会的な意義を信じて不妊治療に取り組んできたのです。そのような父の背中を見てきた私は、生殖医療に携わりたくて産婦人科医をめざしました。

聖マリアンナ医科大学を卒業後、社会保険中央総合病院に研修医として赴任したときに、小林浩一先生に声をかけていただき、縁もゆかりもなかった東京大学医学部附属病院の医局へ入局させていただきました。それは私にとって、非常に大きな転機となりました。

東京大学医学部附属大学病院の周産期チームで働いて3年目の頃は、実力不足をカバーするために、入院患者さんのところに何度も足を運び、熱心にコミュニケーションを取って診療に取り組んでいました。私が担当した患者さんの中には、私の名前を参考にして赤ちゃんの名前を付けてくださった方がいらっしゃって、そこまで私のことを評価していただけたことに大変驚いたことをよく覚えています。

その後、大須賀穣教授の研究チームに入り、廣田泰先生の指導のもと、主に着床に関する研究に従事しました。研究内容が評価され、2015年に欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)でアワードを受賞したのは非常に良い思い出です。私たちの研究により、HIF2αという転写因子が着床に不可欠であることが明らかになりました。

着床に関するメカニズムは未だに十分に解明されていません。着床の世界を解明する基礎研究は、人類の医学の発展を支える上でも非常に重要だと考えます。現在は基礎研究からは離れていますが、当時研究者として行った一つひとつの研究は、今も私の中で活きています。

廣田教授とはAMEDという国の研究費を活用して共同研究をすすめており、師弟関係は今も続いています。これまでの出会いがひとつでも欠けていたら今の状況は違ったと思います。人の出会いのご縁に感謝しています。

松本レディースIVFクリニック 移転後の外観

専門的な知識・経験を有した医師たちによる患者に寄り添った診療

私たちのクリニックのミッションは「不妊治療を通じて、日本の未来に貢献する」です。患者さんお一人おひとりに対して、しっかりとしたサービスを行っていくのが非常に大事だと考えています。日々の診療において、患者さんに一生懸命向き合う中で多くのやりがいを感じています。

そして、ビジョンには「不妊で悩む患者さんにとって最も頼れる日本一のクリニック」を掲げています。不妊で頼れる日本一のクリニックでなければ、不妊治療を通じて日本の未来にも貢献できないと思っているからです。

当クリニックの特徴の一つは、東大の医局出身者が多く、クリニックのスタッフが比較的若い年齢であることから、活気にあふれており、みんなで切磋琢磨しながら取り組んでいる点です。かつて同じ東大の研究室にいた原口先生や田中先生が、今ではクリニックの院長と副院長を務めてくれています。

そのほかにも多くの先生方にご協力いただいています。患者さんは不妊でストレスを抱えていらっしゃることも多く、医師から何と言われるだろうと不安な気持ちで来院されますので、できるだけリラックスできるような雰囲気づくりが大切です。クリニックの先生方は働きやすい環境を整えて、患者さんに向き合ってくださっています。

私自身も患者さんから指名いただくことや、診療後に産まれた赤ちゃんの写真と一緒に手紙をもらうこともあり、患者さんに評価いただいていることを大変うれしく思って受け止めています。

松本レディースIVFクリニック 5階受付正面

日々進歩し続ける生殖医療の技術に対応できるように、医師のカンファレンスは基本的に毎日行い、疑問や課題を皆で話して考え、方針の決定を行っています。また、最新の論文を読み、知識を共有して話題になっていることなどを話し合う抄読会も担当を決めて行っています。

看護師も勉強に励んでおり、不妊カウンセラーの資格を持つ看護師も在籍しています。心理カウンセラーのカウンセリングを受けられる体制も整え、患者さんの気持ちに寄り添える体制づくりに努めています。

クリニックでは男性外来や漢方外来も設けています。一つの施設で女性不妊だけでなく、男性不妊のレベルの高い専門的な診療を提供することで、患者さんにとっての利便性のよさにもつながっています。

漢方外来では、日本産科婦人科学会産婦人科専門医と日本東洋医学会漢方専門医のダブルライセンスを持つ専門医が担当し、漢方との親和性がある妊活や女性特有の疾患に対する体質改善も同時に行っています。

不妊でお悩みの方や人工授精・体外受精を検討中の患者さんに向けて、妊娠のメカニズムや不妊の検査・治療についての動画コンテンツも提供しています。自分のペースで説明を聞きたい方や繰り返し見直したい方にもご自宅で確認していただけるオンライン形式です。今後は、コロナ禍で中止せざるをえなかった対面式のセミナーの実施もニーズに応じて検討していく予定です。

松本レディースIVFクリニック 6階待合スペース

不妊治療に立ちはだかる壁を取り除くための活動にも邁進

2018年3月の厚生労働省の「不妊治療と仕事に係る諸問題についての総合的調査研究事業結果報告書」によると、不妊治療と仕事の両立ができずに離職あるいは雇用形態を変えた、または仕事を辞めた人は43%と、不妊治療を続けることは簡単ではないとわかります。実際に妊活途中で辞めてしまう方もかなりの割合でいらっしゃいます。

今後、妊活を福利厚生として企業がサポートしていく際には、不妊治療と仕事の両立の点でもリテラシーをもっていただけることを願っています。

体外受精を行いたいと思ってもうまくいかない理由の中には、私たち医療者でもどうしようもないこともあります。その体外受精の前に立つ3つの壁として、アクセスの壁、金銭の壁、そしてチャンスの壁が挙げられます。

不妊治療が保険診療になったことで金銭の壁は低くなりましたが、お金以外の問題もクリアしなければ、不妊治療を安心して継続することはできません。保険診療で治療費が抑えられても、不妊治療を継続できなければ意味が無いので、生まれる子どもを増やすためには、金銭面だけではなく、他の壁にも目を配る必要があります。

日本はジェンダーギャップがひどく、妊娠・出産のために仕事を辞めて、2年、3年してから戻ってこようとしても、年収を下げないと再就職できないといったケースもよくみられます。このような子どもを産むと社会に戻って来にくくなることを「チャイルド・ペナルティ」と呼びます。

世界的には非常識なペナルティとされていますが、日本では「妊娠・出産したら元のように働けないのはしょうがない」とみなされやすいです。このような妊娠・出産に対する社会的な制約は不妊治療以前の問題です。仕事ができる人々に対して、適切なポジションや報酬を提供し、妊娠・出産がしやすい環境を整える社会的な仕組みの構築が重要だと考えます。

このような不妊治療における課題を解消するためには、医師として不妊治療に携わるだけでなく、社会全体へのアプローチが必要だと感じ、一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアムの活動も行っています。手弁当ではありますが、必要なことだと思っています。

患者さんの決断を全力でサポートいたします

実は、「不妊」の定義には、独特なところがあります。例えば、糖尿病の診断・治療は、血糖値やヘモグロビンA1cの値などの血液検査の値といった検査結果に基づいて決定されますが、不妊症の定義は、「一年間夫婦生活をしても妊娠しない場合」と期間で定められています。そのため、患者さんが、自分が不妊症かどうか、体外受精が必要かどうかを知りたいと望まれるのは当然ですが、それらを判断するための材料を検査で把握するのは医学的に難しい現状があります。

私自身、最終的には不妊治療をやるかやらないか、体外受精をするかしないかというのは、「判断」の話ではなく、「決断」の話だと考えています。

私たちの役割は、不妊治療のために患者さんを説得することではなく、患者さんたちが決めた答えに対して、より安全により確実性を高めることです。ですので、不妊治療や体外受精に対しての適切な知識を身につけていただき、パートナーと向き合って出した決断を私たちに伝えていただければと思います。

決断するのは大変かもしれませんが、非常に重要なことですので、お力になれることがありましたらお申し付けください。

※この記事は2023年8月のインタビューを元にしています。最新の情報はクリニックHPをご覧ください。

※松本レディースIVFクリニックのHPはこちら:https://www.matsumoto-ladies.com/

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