6組に1組が不妊治療を受けると言われる日本。
妊活や不妊治療の現場の医師たちは、どんな想いを持って最前線に立っているのでしょうか。
グレイス杉山クリニックSHIBUYAの院長就任予定の岡田有香医師のライフストーリー、後編は、新たにできるクリニックがなぜ20〜30代の女性を対象にするのか、そして、この場所で目指していきたいことを伺いました。(前編はこちら)
不妊治療の開始が遅い日本
私は第一線に立つ医師として、とても強く感じていることがあります。
それが、不妊治療のクリニックに来ていただくタイミングが比較的遅いということです。
「タイミング療法」といって、最も妊娠しやすい日を見計らい性交渉をもつ方法での妊娠率は一年が頭打ちです。そうなったら、次の方法に移るべきですし、生殖医学会のHPでは30歳以上で妊活を開始する場合は、まずタイミング療法からの開始でよいかどうかスクリーニングを開始するところからと言われています。
不妊治療を始める年齢が遅くなるという一番の理由は、知識がないというのが大きな理由だと思います。
知識があれば、少しでも妊娠のタイミング早くしようという人もいたり、タイミング療法を何年も継続せずに不妊治療のクリニックへ行く方もいると思うのです。
仕事の都合から、どうしても今は妊娠ができないという場合もあるでしょう。その時、受精卵凍結という選択肢もあると思うのです。「選択肢がある」、ということを知ってもらうのはとても大切だと思います。
一年に一度のチェックを
20代の半ばの女性ですが、もうすでに早発卵巣不全の診断になっている方がいました。20代であっても、この場合は自分の卵子で妊娠できる確率は、10%以下になってしまうのです。
この診断になる前に、体調の異変に気がつけたら、そう強く思いました。
気がつく方法としては、AMH(アンチミューラリアンホルモン)というホルモンを測定する採血があります。採血によって、卵巣が持っている「卵子の在庫数」を測ることができます。
これ以外にも、生理周期が短いというのも異変をキャッチするサインになります。通常の28日周期が、25〜26日になるということがあったら、医師に相談するという選択もあります。
「何年後に妊娠したい」というプランを持った時には、前もって体の準備が必要です。まずは、すぐに妊娠したいかどうかに関係なく自分の体のチェックをしてもらいたいのです。
卵巣や子宮のエコー、がん検診といったスクリーニングはやってもらいたいですね。本当は思春期からこのチェックは必要だと考えています。遅くとも20代に入って一度チェックしてほしいです。
そして、女性は一年に一度は産婦人科に来てほしい。
会社の検診もありますが、エコーの検診がついていない場合があるので注意してみてください。エコーを継続的にみていくと、卵巣の小さな腫れを見つけることができます。
女性だけでなく男性も
若くても、しっかりと自分の体を大事にして欲しいです。
自分自身も研修医の2年間で、睡眠時間を削っていたし、そのあたりから生理痛が重くなったという経験をしています。また男性も、30代はまだ妊娠に問題はないでしょう、というところもあって、結婚に対しての温度感も違うことがあります。
ただ、妊娠を考えた時に、女性も男性も妊娠年齢はある程度限られてくるので、その辺りの知識を男性も持っておくべきだと思います。
男性も年齢にともなって、35歳あたりからDNAの損傷が顕著になってくるとも言われており、また現在の生活様態から精子の量や運動率が低下している方も増えています。将来、不妊治療で悩まないないように、男性も女性も一緒に体について、考えていってもらいたいですね。
わかりやすい医療を
4月には渋谷に開設する「グレイス杉山クリニックSHIBUYA」で、院長に就任されます。岡田医師は、若い世代の女性の健康の管理、必要な知識も得られる場所として、気軽に寄れる、これまでとは違ったクリニックを目指したいといいます。
不妊治療に携わるようになってから、「一般的に何歳で妊娠率はこのくらい」という説明を最初にするのですが、それは産婦人科ですることなのかなと感じてきました。
産婦人科に来なくても、その知識はあった方がいい。
そういった知識をもってもらうために、20代〜30代の若い世代に訴えるべきなのだろうと思い、SNSのインスタグラムで情報発信を2021年の夏から始めました。(アカウント:dr.yuka_okada)
「早く知っておけばよかった」と後悔しないために、様々な情報を流しています。渋谷に新しくできるクリニックもその延長線にあります。
いつか妊娠を考える人たちに、まずは自身の卵巣、子宮の状態を見にきてもらえたらと思います。
もしチェックをして、治療した方がいい問題があれば、ピルを処方したりできるクリニックですし、最終的には卵子をとっておいた方がいいという状況であったり、希望があれば卵子凍結という選択肢もできるクリニックです。
現在は、不妊治療のクリニックが、「ブライダルチェック」として妊娠に向けて検査をやっていたりしますが、妊娠を考えていない人にとって不妊治療のクリニックに行くのはハードルがとても高いですよね。
そうでなくて、結婚や妊娠のずっと前に、体の状態をチェックができる場所があったらいいと思うのです。
20〜30代の女性に、婦人科という雰囲気でなく、普通の内科のイメージで、いつでもかかりやすいクリニックを作っていきたいと思っています。
クリニックにいらっしゃる方の中には、自分の症状や不安な気持ちをうまく伝えられないという方もいるでしょう。話しやすい雰囲気を作り、わかりやすく伝えることも私が目指していきたいところです。
医学の話は基礎知識がないと難しいことも多いのですが、知識ゼロでも私が説明することで「よかった、理解できた」と思えるようにできたらと思っています。
プロフィール写真提供:mederi Inc.