地下鉄丸ノ内線・東京駅から徒歩1分。丸の内という立地柄、近隣で働く女性が多く訪れる丸の内の森レディースクリニック。宋美玄院長は、臨床医として産婦人科医療に携わりながら、テレビやインターネットや雑誌にて、ヘルスリテラシーの向上を目的とした情報発信をはじめ、著書も多く手掛けています。
宋院長が産婦人科医になった経緯、クリニックの特徴や診療で大切にしていることなどを詳しくおうかがいしました。
目次
産婦人科医として働きながら子育ても
外科医だった父親の影響を受けて医学部に進むことを決めました。当初は外科系の診療科に興味がありましたが、当時は女性医師が外科系に進んでも、子どもを産むと仕事を辞めてしまう傾向があり、外科系の診療科で、第一線に立って活躍し続ける女性医師はほとんどいませんでした。
それに比べて、産科は女性であることが強みになる科であり、他の診療科ではない「おめでとう」と言えるお産を経験できることもあって、最終的に産科を選びました。
私たちの世代より上の世代の女性医師は、男性と同じくらい働くか、もしくは、家庭を持っている場合はパートタイムで働くという働き方が一般的でした。フルタイムで働きながら自分で子育てもするという女性医師が増えてきたのは、私たちの世代からです。とはいえ、周りでは、子どもを産むタイミングや、研究も行いながら博士課程でのアカデミックな分野に進むかどうかといった働き方で悩む女性医師が多かったです。
私たちの世代では、子どもを産めば基本的に母親が育てるのが当然という風潮がありましたが、社会の変化とともに、現在の若い世代では、女性医師の夫も一緒に育児をして当然という意識に変わりつつあります。医師も患者さんも、これからの若い世代の方々は、子どもを産んでも働き続けるという選択肢をより選びやすくなっていると思います。
退院後も続く患者との絆
医師としてのキャリアの中で大変なお産を経験された患者さんのことは、関わりも含めて印象に残っています。長く関わらせていただいた患者さんの中には、退院後も会いに来てくださるなど、関係が続く方もいらっしゃいます。
勤務医時代に、妊娠十ヶ月時にお腹の中で赤ちゃんが亡くなってしまった方が入院され、私が担当になったことがありました。当時は無痛分娩も普及していなかったので、痛い思いをして産まなければならないですし、本当に辛く大変な思いをされたのですが、「ありがとうございました」と言ってくださったことが非常に心に残っています。私が別の病院に移った後に元気な赤ちゃんを出産されて、私のイベントに来てくださったときは本当に嬉しかったです。
産婦人科には若い年齢で癌になり、長期間の入院を強いられる患者さんも多くいらっしゃいます。とくに研修医の頃はわたし自身若かったこともあって、入院中の患者さんのためにクリスマスに点灯するツリーを病棟に運んできて、患者さんにとても喜んでもらったこともありました。
なかなか薬が効かなかったり、転移してしまったりという場合もありますが、長い闘病の末に患者さんたちが元気になられて夢をかなえられたときには、自分のことのように嬉しかったです。なかには、ブリーダーをされていた患者さんからワンちゃんを譲り受け、その後20年にわたりわたしの愛犬となった、ということもありました。
患者に寄り添う伴走型の診療スタイル
私たちのクリニックでは、女性のヘルスケアに力を入れていて、リピート率が高いのが特徴のひとつです。
子宮内黄体ホルモン放出システムであるミレーナの診療では、子宮への挿入時には、傍頸管ブロックという局所麻酔薬を使うブロック麻酔に加えて、笑気麻酔も導入しています。笑気麻酔は自費診療になりますが、リラックスした状態で処置を受けることができる麻酔です。痛みが怖くてミレーナを選択できないという方へも配慮しています。
また、ピルについては、国内で取り扱っているものはすべて、ジェネリックも先発品も含めて取り揃えています。基本的には、医師が薬の選択から薬の飲み方や注意事項までのすべての説明を担当するようにしています。
ピルを飲んでみたけれども、結局は合わずにやめてしまったという経験のある方も多いのではないでしょうか。そのため、はじめに、飲み始めの数カ月はさまざまな副作用が出ることがあるということをお伝えした上で、実際に飲んでいただき、患者さんの状態に応じた治療をご提案しています。患者さんが安定して薬を飲み続けることができるようになるまできめ細かくサポートし、寄り添う伴走型の診療スタイルをとっています。
ただし、伴走型といっても、担当医が決まっているわけではありません。医師の選択はできないのですが、診療方針を統一することで、どの医師の診察を受けても安心して治療を受けられる体制を整えています。
オンライン診療とは異なり、患者さんと面と向かって実際に診察させていただくので、密なコミュニケーションをとることができ、より詳しい情報をもとにした診療が可能です。
生理痛は企業のサポートのもとでのケアが必要
クリニックには多くの働く女性が通院されていますが、診断とホルモン治療を受けることで、生理痛の症状が楽になる方が多くいらっしゃいます。生理痛は「病院に行くほどのことではない」と思われがちですが、治療を受けることで毎月の苦しみが劇的に軽減され、その変化に涙する方もいらっしゃるほどです。
もちろん、癌などの命にかかわるような重篤な病気の治療にもやりがいを感じますが、毎月の生理痛に悩む患者さんが治療に出会って楽になったことを喜ばれている姿や、明るい表情を取り戻されているのを見ることも大きなやりがいとなっています。
社会で働いている多くの女性が、毎月訪れる生理痛をあって当たり前のことだと思って、ケアや根本治療をせずに苦しんでいます。生理痛は仕方がないと諦めずに、「ホルモンバランスによる症状に振り回されなくなったら、こんなにも楽になるんだ」という経験を得られるようになって欲しいと思っています。
今までは女性の生理痛やPMS、更年期は、あって当たり前という認識があり、病気だと考える人は多くありませんでした。さらに、PMSなどの悩みは個人の悩みであり、企業や国全体の問題とは考えられていませんでしたが、PMSによる生産性の損失などを考えると、個人だけの責任ではなく、企業や国がケアすべき問題であり、産婦人科と企業が連携することは非常に重要だと考えます。
最近では、女性のヘルスケアに関心を持つ企業からの講演依頼を受けることもあり、連携している企業とは良好な取り組みを進めています。今後は、丸の内周辺の企業だけではなく、さらに範囲を拡大して、女性のヘルスケアに注力している企業と産婦人科が連携し、ネットワークを築いていければと思っています。
臨床医であり続けながら情報発信を続ける理由
私がメディアに出演するようになったきっかけは、2006年の帝王切開手術を受けた妊婦の方が亡くなり、その結果、産婦人科医が逮捕・起訴された福島県立大野病院事件です。妊婦の方は、前置胎盤という重篤な合併症を抱えており、元々リスクが高かったのですが、当時の世論は「出産は母子ともに安全に行えるのが当然」「医師はプロフェッショナルであり、何か問題が発生すれば医師の過失だ」という風潮がありました。
この事件を受けて、「妊娠・出産は本来リスクを伴うものであり、母子ともに安全に出産できることは当然ではない」ということを啓発しようと書いたブログが世間の注目を集め、メディアに出演するきっかけとなりました。私はもともと目立ちやすいタイプということもあり(笑)、書いた本も多くの方に読んでいただいています。
日本では性教育が不十分で、クリニックに来られる方の中にも「セックスして妊娠すると思っていなかった」「結婚するまで妊娠しないと思っていた」「膣外射精は避妊だと思っていた」など、性についての知識のない方が少なくありません。性に関する正しい知識を皆さんに持っていただき、社会の常識にしていきたいです。
そのために、私は一般の方々と産婦人科医療との橋渡し役になりたいと思って情報発信してきました。わたしのメディア露出や企業の講演会をきっかけにヘルスケアに関心をもってもらって、お近くの病院に足を運んでくださるという流れができればいいと思います。
ただし、わたしにとって大事なことは、やはり診療であるとも思っています。日々診療に従事している臨床医が情報発信をしているからこそ、発信することばに重みがあるのだと思っています。
メンテナンスの感覚で気軽に受診を
産婦人科の受診はハードルが高いとは思いますが、絶対に内診するわけではありません。性交渉の経験がない方や思春期の方は、よほどのことがない限り、内診台に乗ってもらうことはないですし、内診台のカーテンの開け閉めも自由にしていただくようにしています。
「台が上がってこのような姿勢になりますよ」「今からこういった診察をしますけれども、始めるときはお声がけしますからね」など、事前にご説明することで、患者さんの羞恥心に配慮し、「一体何されるんだろう」という不安が少なくなるように心がけています。
診察の回数も、安定している方であれば、年に1回にするなど、できる限り患者さんへの負担がかからないようにしています。女性が自分のメンテナンスのために、気軽に訪れて相談できる場所と捉えていただき、悩みや不安、ご要望などをお話いただければと思います。
私の趣味は登山やトレッキングで、クリニックの名前にも森を入れているくらい森が好きです。内装も森をイメージしてつくっていて、グリーンを多く取り入れた落ち着いた雰囲気でリフレッシュできる空間となっています。場所も丸の内にありますので、お仕事帰りにもご利用いただきやすい立地です。
クリニックの奥の窓からは、電車や新幹線が走っているのも見えますので、鉄道好きのお子さんにも楽しんでいただけると思います。お子さん連れの方もご来院ください。
※この記事は2023年9月のインタビューを元にしています。最新の情報はクリニックHPをご覧ください。
※丸の内の森レディースクリニック公式HPはこちら:https://www.moricli.jp/