避妊方法として、海外ではピル(経口避妊薬)、パッチ、リング、注射、インプラントといった様々な手段があります。ピルに関して、国連の調べによると日本の使用率は2.9%ですが、ノルウェー25.6%、英国26.1%、フランス33.1%、カナダ28.5%、米国13.7%と、欧米では広く利用されていています。
今回は、「最良のピルを見つける」という米国発のスタートアップ、アディン(Adyn)を紹介します。
アディンとは?
これまでピルは、医師から「おおよそ体に合うだろう」というものを処方されて患者が試してきました。副作用が出れば新しいピルを試し、また合わなければ別のものを試すという、トライアンドエラーを繰り返すのが常です。アディン創業者のエルザベス・ルッツォ氏は、そこに疑問を持ちました。
「女性は避妊薬によって様々な副作用を経験する可能性があり、私もその問題に悩まされた一人なんです」
アディンは深刻な副作用を引き起こす前に、個人の遺伝情報やホルモンの値に合わせて、個人にベストマッチするピルを割り出そうとしています。
では、どうやって遺伝情報やホルモン値を測るのでしょうか。まず、「Birth Control Optimization Test」という家庭用のキットを使います。このキットは開発中ですが、完成すれば、ユーザーは唾液と指先から採取する血液から情報を得られるようになります。
唾液からはホルモンのレベルを、血液からは遺伝情報を得ることができます。特に遺伝情報からは、血栓やうつ病の遺伝的リスクを調べます。
この情報をもとに医師がオンラインで診察し、副作用のリスクを最小限に抑えたピルを処方する仕組みです。
アディン創業者のエルザベス・ルッツォ氏は「避妊方法を見つけ出すのはアートでなく科学なのです」と語っています。
そもそもピルとは何?
ピルとは、女性の卵巣で作られる「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」が含まれている合成ホルモン剤のこと。これは月経周期をコントロールしている女性ホルモンです。
ピルには避妊や月経のコントロール以外にもメリットがあります。生理痛・生理不順、子宮内膜症、排卵痛の改善、月経前症候群(PMS)の改善、ニキビ・肌荒れの改善、卵巣がん・子宮体がんの予防や改善といった効果があるのです。
一方で、副作用を知ることも重要です。飲み始めてから2〜3ヵ月の間、吐き気、不正出血、むくみといった症状が続くことがあります。これらはマイナートラブルと言われていますが、深刻な場合は血栓症、心筋梗塞、脳卒中になるリスクが少し高くなることが指摘されています。
学術誌「コントラセプション(Contraception)」によると、米国では毎年、1万人の女性のうち5~10人の女性が血栓を経験しているということです。
なぜ、このビジネスが注目なのか?
先にもお伝えしたように、自分に合ったピルを見分けるには、実際に使って仕様を確かめるしかありません。だから、どんな副作用が起きるのか誰もわからないのです。2013年の「National Health Statistics」の報告によると、米国で低用量ピルの使用を止めた女性の63%が、副作用が理由だったと答えています。
エルザベス・ルッツォ氏は「自分に合ったピルを見つけるのはとても難しいことでした」と明かし、「この方法は時間がかかるだけでなく、合わなかった場合に危険な状態になるのです」とも話しています。
ルッツォ氏は10代の頃、ニキビの処方箋として低用量ピルを飲んでいたところ、数年後に副作用と思われる、うつ症状に悩まされました。
そのピルがどのように、なぜ処方されたのかについて、当時は説明がなかったと本人は語っています。
その後、症状は重くなり自殺まで考えるようになったルッツォ氏。主治医に相談したところ、「低用量ピルによるうつ病」はあり得ないと断言されたといいます。
しかしその数ヵ月後、ピルを止めたら気分が良くなったのです。この経験から、ルッツォ氏は多くの女性が同じ問題を持っていることに気がつきました。
「きちっと信頼できる診断基準が必要です。遺伝子の情報を調べるなど、精密医療のアプローチを用いたいと思っています。女性が経験しなければならない不確実な苦痛を取り除きたいのです」(エルザベス・ルッツォ氏)
ルッツォ氏は10年以上に渡って、てんかんや自閉症などの複雑な病気の遺伝的リスクを特定し、精密医療(プレシジョンメディシン)の研究をしてきました。その背景と自らの体験から、2019年にアディンを創業したのです。
今後の展開
2021年8月までの約5カ月間で、600人以上の女性がアディンの初期サービスに登録しました。今後、ニューヨーク州、ニュージャージー州、ロードアイランド州を除く全米で、キットの発売が始まると見られます。
避妊具はピルを含み様々なものがあります。皮膚から避妊薬を取り込むパッチ、子宮の中にはめて受精卵の着床を防ぐリング、排卵を抑える働きのある黄体ホルモンのチューブを腕に埋め込むインプラント、注射などもその例です。
今アディンが始めているのはピルですが、副作用などを考えた上で、ピル以外でもユーザーに合ったベストな避妊方法を提案していくとしています。