赤ちゃんを授かることは実は簡単なことではありません。
不妊に悩むカップルも多く、その原因については女性、男性ともにさまざまなものがあることがわかってきています。
その不妊に対する治療にもいくつかのステップがありますが、今回は体外受精や卵子凍結のために卵巣から卵子を取り出す「採卵」に着目します。
採卵した卵子はその全てを治療に活用することはできません。
なぜなら、卵子の中に「変性卵子」という受精能力のない卵子もあるからです。
採卵された卵子にはどのような状態のものがあり、卵子が変性してしまう原因とは何なのかについてご紹介します。
目次
卵子には「成熟卵子」「未成熟卵子」「変性卵子」がある
そもそも卵子は女性が赤ちゃんとして生まれてくる時には、すでに卵巣内にその元になる細胞を持っています。
元になる細胞が排卵される前に時間をかけて細胞分裂をすすめ、染色体を半分にして(減数分裂)精子との受精ができる状態になります。
それが成熟卵子と呼ばれるものです。
未受精卵子というのは分裂が途中のもの、変性卵子というのは分裂の途中でうまくいかずに形や機能が変わってしまったものを言います。
成熟卵子
成熟卵子は顕微鏡で見るとわかる形状をしています。
大きな卵子の周りに極体という小さな細胞が見られます。
この状態の卵子は分裂が終了しているので受精することができます。
35歳未満の場合、採卵した卵子の約90%が成熟卵子です。(※1)
未成熟卵子
未受精卵子は今成熟卵子になろうとしている状態のもので、採卵した当日に受精することはできません。
その後無事に成熟すれば受精できますが、途中で変性卵子になってしまう可能性もあります。
採卵した卵子の10~15%程度が未成熟卵子です。(※2)
変性卵子
変性卵子は明確な定義はありませんが、細胞が黒ずんでいたり縮んでしまっているもので、受精する力がない卵子の総称と考えてください。
通常、変性卵子の割合は採卵した卵子の5%以下とされますが、40歳を超えると3つに1つが変性卵子となるというデータがあります。(※3)
(※1~3)データ出典:杉山産婦人科 https://www.sugiyama.or.jp/ivf/page3
「変性卵子」ができる原因
ではこの変性卵子ができる原因は何でしょうか。
原因が分かればそれに対処することが可能かもしれません。
体質
全ての卵子になる元の細胞は生まれた時からすでに持っています。
そのため卵子がうまく育たない、変性することが多いようなことが続く場合、残念ながらそのような体質であるという場合もあります。
加齢
元々変性卵子になることが少ない人でも加齢の影響は大きくあります。
卵子の老化と言われることもありますが、加齢に伴って卵巣機能の低下などが起こり、変性卵子が増えます。
また加齢により成熟卵子でも、卵子の質の低下と言われ正常に受精・細胞分裂する能力が低い卵子が増えてしまいます。
卵子の質の低下は35歳ぐらいから始まり、40歳頃~閉経にかけて急激に進行します。
加齢は妊娠確率の低下や、流産・早産・死産・遺伝子疾患などの胎児リスク、妊娠高血圧症候群などの合併症・緊急帝王切開などの母体リスクが増加する原因ともなります。
変性卵子を減らして妊娠確率を高める方法はある?
できることなら妊娠確率を高めたいものです。
変性卵子を減らすことはできるのでしょうか。
若いうちに妊娠出産の準備を始める
卵子のことを考えるならば、年齢が若く、妊孕力の高い成熟卵子がたくさんある時から、妊娠出産の計画をたてることが最善の方法と言えるでしょう。
採卵方法を変更する
採卵のために使う薬剤は卵子を育てるものや排卵を促進させるものといくつか種類があります。
自分の体質などに合わせて薬剤の種類や、使用するタイミングなどを工夫し、採卵方法を変えながら試してみる必要があるでしょう。
治療を進める医師とよく相談しながら自分が納得した方法で採卵をしてもらうのが理想です。
若いうちに卵子凍結保存をする
1つの選択肢として成熟卵子を凍結保存しておくこともできます。
若くて妊娠力の高い卵子を、質の高いまま保存しておき将来子どもが欲しいときにまた体内に戻すことができます。
ただ母体の加齢は止められないので一般的には保存できるのは40歳前後までという期限はあります。
卵子凍結保存について
成熟卵子の凍結保存が妊娠確率を高めるために有効な手段であることをご紹介しました。ここでは、卵子凍結保存についてもう少し詳しくご紹介していきます。
卵子凍結が社会的に広まった背景|凍結卵子の安全性
卵子凍結で産まれた子どもについて、不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。卵子凍結が子どもを持つための選択肢として広まった背景には、以下の見解が米国生殖医学会からされたことがあります。
- 凍結融解卵子から産まれた子どもに染色体異常、先天異常、発育障害のリスクが増大することはない
そのため、2013年に日本生殖医学会がガイドラインを正式決定し、健康な未婚の女性が将来の妊娠に備えて卵子を凍結保管できるようになりました。
ここ数年で性能の進化や技術の向上により高い精度で卵子の融解後の生存率も90%を超えるようになりました。
卵子凍結が必要になる理由|加齢により妊娠率が低下
妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交渉した場合、自然に妊娠する確率は平均20〜30%と言われています。若い男女夫婦が妊娠したいと思った場合でも、自然妊娠できる確率は意外と低いです。さらに、加齢とともに「卵子の老化」がすすむと、変性卵子の割合が増えて、妊娠できる確率も低下していきます。卵子凍結は、加齢による妊娠率の低下にアプローチできる画期的な方法です。
卵子凍結保存のメリット|凍結時の出産率をキープ
若くて妊娠力の高い卵子を、質の高いまま保存しておけば、年齢が上がっても凍結時の出産率を保つことが可能です。以下のグラフによると、若い卵子の場合、年齢が上がっても出産率が保てていることがわかります。
自社HPより抜粋(https://gracebank.jp/guide/)
卵子凍結の痛み
実際に卵子凍結をするとなると、気になるのが痛みです。卵子凍結には、以下に記載するいくつかのプロセスがあり、人によっては痛みが強く感じられる可能性があります。
- 各種検査
- 排卵誘発
- 採卵
- 体外受精の胚移植
とくに、採卵では卵巣に針を刺すため、痛みを感じる方が多くなっています。痛みが苦手な方は、痛みへの不安に寄り添ってくれるクリニック選びが大切です。
卵子凍結の痛みについては、こちらの記事も参考にしてください。
安心安全に卵子を凍結保存できるGrace Bank
国内最大級の卵子凍結保存のバンクであるGrace Bankでは、安全に採卵し、マイナス196℃の液体窒素で半永久的に卵子を保存することが可能です。ここからは、Grace Bankの卵子凍結について、以下の4つのポイントに絞ってご紹介します。
- 卵子凍結の流れ
- 卵子凍結の費用
- 卵子凍結の採卵年齢
- 凍結卵子の保管体制
卵子凍結の流れ
不妊治療専門クリニックなどで以下のプロセスに従って卵子を凍結していきます。
- 診察、検査
- 排卵誘発
- 採卵
- 卵子凍結
Grace Bankの卵子凍結の場合は、全国の提携クリニックから通院しやすいクリニックを選択できます。全国の提携クリニックについては、こちら(https://gracebank.jp/clinicnetwork/)をご参照ください。
卵子凍結の費用
卵子凍結では、大きく分けて以下の4つの費用がかかります。
- 採卵・凍結費用
- 保管費用
- 出庫費用
- 体外受精費用
採卵・凍結費用では、どのクリニックで採卵するかにもよりますが、約44万円が目安です。Grace Bankの保管費用は、2つのプラン(初期費用+年払い、初期費用+月払い)があります。実際に凍結卵子を利用する際には、約3万円の出庫費用と、体外受精の費用が必要です。費用の詳細については、こちら(https://gracebank.jp/price/)をご参照ください。
なお、2024年から東京都による助成金など、卵子凍結をサポートしてくれる制度もありますので、該当する方は利用されることをおすすめします。
卵子凍結の採卵年齢
Grace Bankでは、基本的には採卵をするご年齢を満40歳の誕生日までとさせていただいております。が、それ以上のご年齢でご希望される場合でも専門医の判断により実施できることもありますので、お気軽にご相談ください。
凍結卵子の保管体制
Grace Bankは、国内シェア99%である民間人臍帯血バンクのステムセル研究所と提携し、今まで25年以上無事故を誇る専用大型タンクで凍結した卵子を一括管理しています。保管施設は地震や津波に強いエリアに設置され、停電対策も万全、安心のシステムで大切な卵子を保管します。
【体験談】となりの卵子凍結~34歳、卵子凍結を経てリラックスした自分に~
Grace Bankで卵子凍結された方の体験談として、34歳のまりえさんの体験談をご紹介します。まりえさんは、34歳の誕生日に、自分の意思のみで卵子凍結を決断されました。
【卵子凍結を決断した理由】
- 年齢が卵子の質の低下に影響する
変性卵子など、卵子の低下について向き合い、卵子凍結をする決意をされたとのことでした。
【Grace Bankを選んだ理由】
- 生殖医療で著名な病院で卵子凍結と、体外受精が可能
権威があり、信頼できるクリニックで卵子凍結や体外受精が可能な点に魅力を感じ、Grace Bankを選ばれたそうです。
まとめ
受精するためにとても重要な卵子ですが、普段目にすることのできないものなのでその状態を自分で調整することは不可能です。
いつか妊娠したいと考えるならば、少しでも若いうちに自分の卵子の状態を知り、医師と相談し適切な採卵方法を見つけることが重要です。
使用する採卵誘発剤を変えることで成熟卵子と変性卵子の数が変わることもあるのでいくつか方法を試してみるのも良いでしょう。
しかし、治療の前に少しでも若い卵子を凍結保存しておくことができるという選択肢を考えることもおすすめです。
名倉 優子 なぐら ゆうこ
日本産科婦人科学会専門医
グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)
杉山産婦人科の医師・培養士による技術を用いた質の高い診療を提供。
将来の妊娠に備えたプレコンセプションケアと卵子凍結にフォーカスした診療。
スタッフは全員女性。明瞭な料金設定も人気!