女性の健康・妊活

【医師監修】ピル服用者が知るべき「血栓症」のすべて|危険なサインと安全な飲み方

ピルの服用を検討中、あるいはすでに服用されている方にとって、「血栓症」は特に気になる副作用の一つではないでしょうか。この記事では、ピルが血栓症を引き起こすメカニズム、血栓症のリスク因子となるピルの種類といった基本的な関係から、見逃してはいけない下肢、胸部、頭部などに現れる危険なサイン、そして血栓症が疑われる場合の緊急対応まで、具体的な情報を分かりやすく解説します。さらに、ピル服用前の問診の重要性から、医師との定期的な相談とチェックアップの重要性まで、安全にピルを服用し続けるための具体的な予防策を網羅的にご紹介します。

ピル服用と血栓症の基本的な関係

経口避妊薬、いわゆるピルは、その避妊効果や月経困難症、子宮内膜症の治療効果など、女性の健康維持に多大な恩恵をもたらします。しかし、ピルを服用する上で、「血栓症」のリスクがあることは避けて通れません。血栓症とは、血管内で血液が固まって血栓(血の塊)ができ、血管を詰まらせてしまう病態を指します。特にピル服用との関連で注意が必要なのは、足の静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」や、それが肺に移動して血管を詰まらせる「肺血栓塞栓症」を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE)です。

血栓症が発症すると、単なる足の痛みや腫れといった症状にとどまらず、命に関わる重篤な状態へ進行する可能性があります。また、血栓症は一命を取り留めた場合でも、後遺症を残すことがあります。

この章では、こうした重大なリスクを正しく理解するために、ピルがなぜ血栓症のリスクを高めるのか、その生理学的なメカニズムと、どのような種類のピルや背景因子がリスク因子となるのかについて、基本的な知識を詳しく解説します。血栓症を過度に恐れるのではなく、正しい知識を持つことで、安全にピルを使用するための判断材料としていただくことが重要です。

ピルが血栓症を引き起こすメカニズム

ピルには、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲスチン(黄体ホルモン)が配合されています。このうち、特にエストロゲンが血栓症のリスクを高める主な要因と考えられています。

エストロゲンは、体内で以下のような作用を通じて血液が固まりやすい状態を作り出します。

  • 血液凝固因子の増加: 血液を固める働きを持つ特定の凝固因子(例:第VII因子、第X因子など)の産生を促進します。これにより、血液が固まるスピードが速くなります。
  • 抗凝固因子の減少: 血液が固まるのを防ぐ働きを持つ抗凝固因子(例:アンチトロンビンなど)の活性を低下させることがあります。

これらの作用が複合的に働くことで、血液が固まりやすくなり、血管内で血栓が形成されるリスクが増加すると考えられています。ただし、そもそも血栓症のリスクが高くない健康な女性が、ピルを服用しない場合と比較して高まる程度であり、全ての人に血栓症が発症するわけではありません。

血栓症のリスク因子となるピルの種類

ピルによる血栓症のリスクは、配合されているホルモンの種類や量によって異なります。特に、エストロゲンの用量がリスクに影響を与えることが知られており、現在主流の低用量ピルや超低用量ピルは、以前の高用量ピルと比較して血栓症のリスクが低減されています。しかし、リスクがゼロになるわけではありません。

また、配合されているプロゲスチン(黄体ホルモン)の種類も血栓症のリスクに関連するかどうかは現在検討中です。プロゲスチンは、その開発された時期によって「世代」に分類され、世代によって血栓症リスクの相対的な違いが報告されています。

プロゲスチン世代主なプロゲスチン血栓症リスクの傾向(相対的)
第1世代ノルエチステロンなど比較的低い
第2世代レボノルゲストレルなど比較的低い
第3世代デソゲストレル、ゲストデンなど第2世代よりやや高いとの報告がある
第4世代ドロスピレノンなど第2世代よりやや高いとの報告がある

上記の表は一般的な傾向を示すものであり、個人の体質や他のリスク因子(喫煙、肥満、遺伝的要因など)によってリスクは大きく変動します。どのピルが最も適切かは、個々の健康状態や既往歴を考慮し、医師と十分に相談して決定することが極めて重要です。

見逃してはいけない血栓症の危険なサイン

ピル服用中に血栓症を発症した場合、その症状は突然現れることがあります。早期に異常に気づき、適切な対応をとることが非常に重要です。ここでは、体の様々な部位に現れる血栓症の危険なサインを詳しく解説します。

下肢に現れる血栓症の初期症状

下肢、特にふくらはぎや太ももに現れる症状は、深部静脈血栓症(DVT)のサインである可能性が高く、見逃してはなりません。これらの症状は片足だけに現れることが多く、左右差があるのが特徴です。

症状の種類具体的な特徴
痛み片足のふくらはぎや太ももに突然現れる痛み。押すと痛む、または持続的な痛み。
腫れ・むくみ片足のみの腫れやむくみ。靴やズボンがきつく感じる。
発赤・熱感皮膚が赤みを帯びたり、触ると熱っぽく感じる。
変色皮膚が青紫色に変色する。
血管の浮き出皮膚の下の血管が通常よりも目立って浮き出て見える。

これらの症状は、放置すると血栓が肺に飛び、命に関わる肺塞栓症に移行する危険性があるため、特に注意が必要です。

胸部や呼吸器に現れる血栓症のサイン

深部静脈血栓症でできた血栓が血流に乗って肺に到達すると、肺塞栓症を引き起こします。これは緊急性の高い状態であり、直ちに医療機関を受診する必要があります。

症状の種類具体的な特徴
息切れ・呼吸困難突然の息苦しさや呼吸困難。安静時でも呼吸が苦しいと感じる。
胸の痛み深呼吸や咳をしたときに悪化する、鋭い胸の痛みや圧迫感。
動悸脈拍が速くなる、ドキドキするなどの動悸。
咳・血痰原因不明の咳、時にはピンク色の泡状の痰や血が混じる血痰。
めまい・失神冷や汗を伴うめまい、意識が遠のくような失神。

これらの症状は、命に関わる重篤なサインです。少しでも疑われる場合は、ためらわずに救急車を要請してください。

頭部やその他の部位に現れる血栓症の症状

血栓症は下肢や肺だけでなく、脳、心臓、目、腹部など全身の血管で起こる可能性があります。それぞれの部位で異なる症状が現れます。

部位症状の種類具体的な特徴
頭部(脳梗塞)激しい頭痛突然の、これまでに経験したことのないような激しい頭痛
麻痺・しびれ片側の手足や顔面の麻痺、しびれ。
言語障害ろれつが回らない、言葉が出にくい、理解できない。
視覚障害片目が見えにくい、視野の一部が欠ける。
目(網膜静脈閉塞症)視力低下突然の片目の視力低下、視野の一部が欠ける。
心臓(心筋梗塞)胸の痛み胸の中央が締め付けられるような、激しい圧迫感や痛み。左腕や肩への放散痛。
その他冷や汗、吐き気、呼吸困難。
腹部(腸間膜静脈血栓症)激しい腹痛持続的または間欠的な強い腹痛、吐き気、嘔吐、下痢。

これらの症状も、迅速な対応が求められる重篤なサインです。特に脳梗塞の症状では、「FAST」(顔の麻痺 FACE、腕の麻痺 ARM、言葉の障害 SPEECH、発症時刻 TIME)を意識し、迅速な行動が重要です。

血栓症が疑われる場合の緊急対応

「少しでも血栓症の疑いがある症状が現れたら、迷わずすぐに医療機関を受診する」ことが最も重要です。自己判断は絶対に避け、専門医の診察を受けてください。

  • 医療機関を受診する:症状が現れたら、速やかに内科、循環器内科、脳神経外科、または救急科を受診してください。
  • ピル服用中であることを伝える:医師には必ず、現在ピルを服用していることを伝えてください。これは診断と治療方針の決定に不可欠な情報です。
  • 緊急性の高い症状の場合:意識障害、激しい胸痛、呼吸困難、突然の片麻痺など、命に関わる可能性のある重篤な症状の場合は、ためらわずに救急車を要請してください。

早期発見と迅速な対応が、血栓症による重篤な合併症を防ぎ、命を救う鍵となります。

安全にピルを服用するための予防策

ピルを服用する上で、血栓症のリスクを最小限に抑えるためには、適切な予防策を講じることが不可欠です。ここでは、ピル服用者が安全に治療を継続するために知っておくべき重要な予防策について詳しく解説します。

ピル服用前の問診と検査の重要性

ピルを服用する前には、必ず医師による詳細な問診と検査を受けることが極めて重要です。これにより、血栓症のリスク因子が事前に特定され、ご自身の健康状態に適したピルの種類や服用方法が検討されます。特に、過去の病歴(既往歴)、家族の病歴(家族歴)、喫煙習慣、肥満度、高血圧、糖尿病などの有無は、血栓症のリスクを大きく左右するため、正直に医師に伝える必要があります。血液検査では、血液凝固能や脂質代謝の状態が確認され、血栓ができやすい体質ではないかを評価します。これらの情報は、医師がピル処方の可否や適切な種類を判断する上で不可欠です。

日常生活でできる血栓症の予防習慣

十分な水分補給と適度な運動

まず、十分な水分補給を心がけましょう。脱水状態は血液の粘度を高め、血栓ができやすくなる原因となります。意識的に水を飲むことで、血液をサラサラに保ち、血流を良好に維持できます。また、適度な運動は血流を促進し、血栓形成を抑制する効果があります。ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で日常的に体を動かす習慣をつけましょう。特に、座りっぱなしの時間が長い方は、定期的に立ち上がって体を動かすことが大切です。

長時間の同一姿勢を避ける工夫

飛行機での長距離移動やデスクワーク、車の運転など、長時間同じ姿勢でいることは、下肢の血流が滞り、深部静脈血栓症のリスクを高めます。このような状況では、1時間に1回は席を立って歩いたり、座ったままでも足首を回したり、ふくらはぎを伸縮させる運動を行ったりする工夫が必要です。また、弾性ストッキングの着用も血流改善に有効な手段の一つとして検討できます。旅行や出張の際には、特に意識して予防策を講じましょう。

喫煙や持病とピル服用中の血栓症リスク

喫煙は、ピル服用中の血栓症リスクを著しく高める最大の要因の一つです。特に35歳以上で喫煙している方がピルを服用する場合、血栓症の発症リスクは非喫煙者の数十倍にもなると報告されています。そのため、ピルを安全に服用するためには、禁煙が強く推奨されます

また、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの持病がある場合も、血栓症のリスクが増加します。これらの持病をお持ちの方は、ピル服用前に必ず医師に伝え、持病の適切な管理を継続することが重要です

リスク因子血栓症リスクへの影響推奨される対策
喫煙リスクを著しく増大(特に35歳以上)ピル服用中の禁煙
高血圧血管への負担増大、血栓形成促進血圧の適切な管理
糖尿病血管障害の進行、血栓形成促進血糖値の厳格なコントロール
脂質異常症動脈硬化の進行、血栓形成促進脂質値の改善、食事・運動療法

これらの因子は、ピル単独よりも複合的に作用することで、さらにリスクを高める可能性があります。医師と密に連携し、ご自身の健康状態を常に把握することが大切です。

医師との定期的な相談とチェックアップ

ピル服用中は、自己判断せずに、必ず医師の指示に従いましょう。定期的な診察を受けることで、血栓症のリスクが変化していないか、ピルが体に合っているかなどを継続的に確認できます。特に、服用開始後数ヶ月間は血栓症のリスクが比較的高い期間とされており、初期の段階での丁寧なフォローアップが重要です

もし、体調に異変を感じたり、血栓症の危険なサインと思われる症状が現れた場合は、ためらわずに速やかに医療機関を受診してください。疑問や不安な点があれば、遠慮なく医師や薬剤師に相談し、納得のいくまで説明を受けるようにしましょう。適切な情報共有と定期的なチェックアップが、ピルを安全に服用し続けるための鍵となります。

まとめ

ピル服用における血栓症のリスクは、決して無視できない重要なテーマです。しかし、この記事で解説したように、そのメカニズムやリスク因子、そして何よりも「危険なサイン」を正しく理解することで、過度に恐れることなく安全にピルを服用することが可能です。

ピルを安全に服用し続けるためには、服用前の詳細な問診と検査、そして服用中の定期的なチェックアップが不可欠です。日常生活においても、十分な水分補給や適度な運動、長時間の同一姿勢を避けるなどの予防習慣を心がけましょう。

ピルは、避妊だけでなく月経困難症や子宮内膜症の治療など、女性のQOL向上に大きく貢献する医薬品です。血栓症に関する正しい知識を持ち、医師と密に連携しながら、安全で快適なピルライフを送るための第一歩を踏み出しましょう。

監修者

名倉 優子 なぐら ゆうこ

日本産科婦人科学会専門医


グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)

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