精子の奇形が妊娠に影響を与えることをご存知でしょうか。この記事では、精子の奇形の定義や種類、妊娠率や流産、胎児への影響といったリスク、さらに奇形を引き起こす原因(生活習慣・環境要因・加齢・病気など)を詳しく解説します。また、精子の奇形を防ぐための対策として、生活習慣の改善、サプリメントの活用、医療機関への相談についても具体的に説明。さらに、精液検査やDNA断片化指数検査といった検査方法、不妊治療との関連性についても解説しています。
目次
精子の奇形とは何か
精子の奇形とは、精子の形状や構造に異常が見られる状態のことを指します。健康な精子は、頭部、頸部、尾部(中片部・主部・終片部)から構成され、スムーズに泳ぎ卵子と受精する能力を持っています。しかし、奇形精子は頭部の形状が異常だったり、尾部が複数あったり、全く動かなかったりと、様々な異常を示します。 精子の奇形は、自然妊娠や人工授精、体外受精などの不妊治療における成功率に影響を与える可能性があります。
精子の奇形の定義と種類
WHO(世界保健機関)の基準では、正常な形態の精子が4%未満の場合を「奇形精子症」と定義しています。この基準は、自然妊娠の可能性を評価する上で重要な指標となります。
精子の奇形には様々な種類があり、以下はその代表的な例です。
- 頭部奇形:巨大頭部、小型頭部、円錐形頭部、無頭部など、精子の頭部の形状に異常が見られるもの。
- 尾部奇形:尾部が短すぎる、長すぎる、複数ある、巻きついているなど、精子の尾部に異常が見られるもの。
- 複合奇形:上記複数の奇形が組み合わさって現れるもの。
正常な精子との違い
正常な精子は、楕円形の頭部と滑らかな一本の尾部を持ち、活発に運動することで卵子へと到達します。 一方、奇形精子は、頭部の形状が歪んでいたり、尾部が複数あったり、短かったり、巻きついていたりするなど、様々な異常を示します。これらの異常は、精子の運動能力や卵子への侵入能力を低下させ、結果としてこのような精子が多いと妊娠の確率を下げる可能性があります。顕微鏡で観察することで、正常な精子と奇形精子の違いを明確に識別することができます。

画像出典:杉山産婦人科HP
精子の奇形が妊娠に与える影響
妊娠率への影響
精子の奇形は、妊娠率の低下と関連があるとされています。正常な形態の精子は、卵子と受精するために必要な運動能力や卵子への侵入能力を備えています。しかし、奇形の精子はこれらの能力が低下している場合があり、結果として受精に至る確率が低くなる可能性があります。精子の奇形率が高いほど、自然妊娠が難しくなる傾向があります。
精子の奇形を引き起こす原因
精子の奇形は様々な要因によって引き起こされる可能性があり、特定の原因を一つに絞り込むことは難しい場合が多いです。ここでは、精子の奇形に影響を与える可能性のある主要な要因について解説します。
①生活習慣の影響
日々の生活習慣は精子の質に大きな影響を与えます。不健康な生活習慣は精子の奇形のリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。
喫煙 | タバコに含まれる有害物質は精子のDNAを損傷し、奇形率を高める可能性が指摘されています。また、喫煙は精子の運動率や数を減少させることも報告されています。 |
過度の飲酒 | 過度なアルコール摂取は精子の生産を阻害し、奇形のリスクを高める可能性があります。アルコールは精巣の機能を低下させ、テストステロンの分泌を抑制する可能性があるためです。 |
食生活の乱れ | 栄養バランスの偏った食生活は精子の健康に悪影響を与える可能性があります。特に、ビタミンやミネラル、抗酸化物質の不足は精子の奇形リスクを高める可能性があるため、バランスの良い食事を心がけることが重要です。 |
睡眠不足 | 慢性的な睡眠不足はホルモンバランスを崩し、精子の生産や質に悪影響を及ぼす可能性があります。質の高い睡眠を十分に確保することは精子の健康維持に重要です。 |
ストレス | 過剰なストレスは活性酸素の産生を増加させ、精子のDNAを損傷する可能性があります。ストレスを適切に管理することも精子の健康にとって重要です。 |
②環境要因の影響
生活環境における特定の要因も精子の奇形に影響を与える可能性があります。
化学物質への曝露 | 特定の化学物質(農薬、重金属、有機溶剤など)への曝露は精液所見の増悪リスクを高める可能性が示唆されています。日常的にこれらの化学物質を取り扱う職業に従事している場合は、適切な安全対策を講じることが重要です。 |
放射線被曝 | 高線量の放射線被曝は造精能(精子を作る能力)を低下させ、不妊を引き起こす可能性があります。ただし、CTやレントゲンなどの検査目的での被ばく量であれば基本的に影響はほとんどないと考えてよいでしょう |
高温環境 | 精巣は体温よりも低い温度で正常に機能するため、高温環境への長時間曝露は精子生産に悪影響を及ぼし、奇形のリスクを高める可能性があります。サウナや長時間の入浴は控える、ノートパソコンを長時間膝の上に置かないなど、精巣の温度を適切に保つように心がけましょう。 |
③加齢の影響
加齢に伴い精子のDNAの損傷が蓄積し、奇形率が上昇する傾向があります。これは自然な加齢現象の一つと考えられています。
④病気の影響
精巣炎や精索静脈瘤などの病気は精子の生産に影響を与え、奇形のリスクを高める可能性があります。
精子の奇形を防ぐための対策
精子の奇形は、様々な要因によって引き起こされる可能性があります。健康的な生活習慣を維持することは、精子の質を向上させ、奇形のリスクを低減するために非常に重要です。また、必要に応じてサプリメントの活用や医療機関への相談も検討しましょう。
①生活習慣の改善
日々の生活習慣を見直し、精子にとって良い環境を作ることは、奇形予防の第一歩です。
バランスの良い食事 | 栄養バランスの取れた食事は、精子の健康に不可欠です。特に、抗酸化作用を持つビタミンC、E、亜鉛、セレンなどを積極的に摂取しましょう。緑黄色野菜、果物、魚介類、ナッツ類などをバランス良く取り入れることが重要です。偏った食事や加工食品の過剰摂取は、精子の質を低下させる可能性があります。 |
適度な運動 | 適度な運動は、血行を促進し、精巣への栄養供給を改善します。ウォーキングやジョギング、水泳など、無理のない範囲で継続的に行うことが大切です。ただし、過度な運動は逆効果となる場合があるので注意が必要です。 |
禁煙 | 喫煙は、精子のDNAを損傷し、奇形のリスクを高めることが知られています。禁煙は、精子の健康だけでなく、全身の健康にも繋がります。 |
節酒 | 過度の飲酒は、精子の産生量を減少させ、奇形のリスクを高める可能性があります。アルコールの摂取は控えめにするか、禁酒することが推奨されます。 |
十分な睡眠 | 質の良い睡眠は、ホルモンバランスを整え、精子の産生を促進します。毎日7~8時間の睡眠時間を確保するように心がけましょう。睡眠不足は、精子の質の低下に繋がる可能性があります。 |
ストレス管理 | ストレスは、精子の産生や機能に悪影響を与える可能性があります。ストレスを適切に管理するために、リラックスできる時間を作る、趣味を楽しむ、十分な睡眠をとるなど、自分に合った方法を見つけましょう。ヨガや瞑想なども効果的です。 |
②サプリメントの活用
コエンザイムQ10などのサプリメントは、精子の健康維持に役立つと考えられています。ただし、サプリメントはあくまで補助的な役割であり、バランスの良い食事を代替するものではありません。摂取する際は、医師や薬剤師に相談することをお勧めします。
③医療機関への相談
上記の方法を試しても改善が見られない場合、または精子の奇形が強く疑われる場合は、泌尿器科や不妊治療専門クリニックなどの医療機関に相談しましょう。精液検査やホルモン検査などを通じて、原因を特定し、適切な治療を受けることができます。早期発見・早期治療が重要です。
精子の奇形に関する検査方法
精子の奇形は、見た目では判断できません。そのため、専門の医療機関で検査を受ける必要があります。主な検査方法には、精液検査とDNA断片化指数検査があります。
精液検査
精液検査は、精子の数、運動率、奇形率などを調べる基本的な検査です。採取した精液を顕微鏡で観察し、WHO(世界保健機関)の基準と照らし合わせて評価します。具体的には、以下の項目が評価されます。
- 精液量:1.4ml以上
- 精子濃度:1600万/ml以上
- 総精子数:3900万以上
- 精子運動率:42%以上(前進運動+非前進運動)または30%以上(前進運動)
- 精子正常形態率:4%以上
これらの数値が基準値を下回っている場合、精子に問題がある可能性が示唆されます。特に、精子正常形態率が低い場合は、精子の奇形率が高いことを意味します。ただし、精液検査の結果が悪くても、必ずしも妊娠できないわけではありません。また、精液検査の結果が良くても、精子のDNAに損傷がある場合もあります。
DNA断片化指数検査
DNA断片化指数検査は、精子のDNAの損傷度合いを調べる検査です。精子のDNAが損傷していると、受精率の低下や流産のリスク増加につながる可能性があります。一般的な精液検査では精子の形態や運動率は評価できますが、DNAの損傷まではわかりません。そのため、精液検査の結果が正常範囲内であっても、妊娠しづらい場合にはDNA断片化指数検査を受けることを検討する価値があります。この検査では、精子のDNAに特殊な試薬を加え、DNAの断片化の程度を測定します。断片化指数が高いほど、DNAの損傷が大きいことを示します。酸化ストレスや加齢、生活習慣の乱れなどがDNAの断片化の原因として考えられています。
これらの検査を受けることで、精子の状態をより詳しく把握し、適切な不妊治療を選択することができます。検査を受ける際には、泌尿器科や不妊治療専門クリニックに相談しましょう。
精子の奇形と不妊治療
精子の奇形は、自然妊娠を困難にする場合があり、不妊治療の必要性が高まることがあります。ここでは、精子の奇形に関連する主な不妊治療法について解説します。
人工授精
人工授精は、採取・調整した精液をカテーテルを用いて子宮内に直接注入する治療法です。自然妊娠に比べて精子が卵子に到達しやすくなるため、妊娠の可能性を高めることができます。軽度の精液所見不良の場合推奨されます。
体外受精
体外受精は、女性の卵巣から卵子を採取し、体外で卵子に精子をふりかけて受精させた後、受精卵を子宮内に戻す治療法です。精液所見がかなり不良な場合は受精方法として後述の顕微授精が選択されます。
顕微授精
顕微授精は、細いガラス針を用いて1つの精子を卵子に直接注入する治療法です。精子の奇形や運動率の低さなどが原因で体外受精では受精が難しい場合でも、顕微授精によって受精の可能性を高めることができます。顕微授精は、精子の奇形による不妊治療において、有効な選択肢の一つと言えるでしょう。ただし、顕微授精は自然な受精とは異なるため、そのリスクやメリットについて医師とよく相談することが重要です。
まとめ
精子の奇形は、妊娠率の低下に影響を与える可能性があります。その原因は、喫煙や過度の飲酒、食生活の乱れといった生活習慣、化学物質曝露や放射線被曝などの環境要因、加齢や特定の病気など多岐に渡ります。しかし、バランスの取れた食事や適度な運動、禁煙、節酒といった生活習慣の改善、必要に応じてサプリメントの活用や医療機関への相談によって、精子の奇形のリスクを軽減できる可能性があります。精液検査やDNA断片化指数検査で精子の状態を把握し、必要であれば人工授精、体外受精、顕微授精などの不妊治療も選択肢となります。妊娠を望む方は、精子の健康にも気を配り、積極的に対策を行うことが大切です。
グレイス杉山クリニックSHIBUYAでは精液検査をお受けいただけます。
- 完全予約制
- 予約可能日時
– 月曜日
– 水曜日
– 木曜日
– 土曜日
※それぞれ10:30〜、11:00〜、11:30〜 - 検査所要時間:約1時間
- 検査費用:5,000円(税込5,500円)
- 男性のみでのご予約・ご来院はできません。パートナーの方に予約を取って頂き、ご一緒にお越しください。または、パートナーの方がご持参ください。
ご希望の方は、こちらからご予約をお願いいたします。

名倉 優子 なぐら ゆうこ
日本産科婦人科学会専門医
グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)
杉山産婦人科の医師・培養士による技術を用いた質の高い診療を提供。
将来の妊娠に備えたプレコンセプションケアと卵子凍結にフォーカスした診療。
スタッフは全員女性。明瞭な料金設定も人気!