東京都・港区の芝公園かみやまクリニックは、一般不妊治療と高度生殖医療(体外受精)を中心に、婦人科診療や検診なども実施。昭和医科大学病院や虎の門病院などとも連携し、地域の女性のかかりつけ医を目指しています。体外受精を中心とする不妊治療については、およそ30年以上前から興味を持ち、研究を重ねてきた神山医師。不妊治療に対する思いや、かみやまクリニックが目指す方向性についてお話をうかがいました。
プライベートクリニックゆえの自由度を活かす
不妊治療を中心とする、クリニックを開業された理由をお聞かせ下さい。
私の場合、医学部の学位のテーマも「卵巣の内分泌」をテーマにしていたので、もともとの興味はありました。しかし初めて体外受精について目の当たりにしたのは、約30年ほど前の、1993年ごろでした。栃木県の自治医科大学のそばにある、クリニックに研修に行ったのです。そこで目の当たりにして思ったのは、体外受精は非常に高度だし、通常の産婦人科診療とは胚培養を行わないといけない点で、大きく違うということ。
当時はまだ体外受精というのは決して一般的ではなく、大学病院でもほとんど例がありませんでした。先端を行っているのはプライベートクリニックだったのですね。その研修には他の大きな病院やクリニックの院長なども参加しており、様々な議論や勉強をする仲間ができました。
保険診療になって様変わりしてしまった部分もありますが、医師個々人が運営するプライベートクリニックであれば、採卵できる日や手術日、ホルモン注射をする時間なども医師の裁量で決めることができます。海外で発表されたような先端医療も、患者さまの状態を見て、同じく個人の裁量で実施することができますね。大学病院ではそうはいきませんから、自身のクリニックを開業して、こうした医療を患者さまに提供したいと考えました。


芝公園かみやまクリニックで大切にされている方針や理念、クリニックの特色を教えてください。
不妊治療にも様々な種類がありますので、患者さまのご要望を聞いて、なるべく自然に妊娠いただけることを優先に考えております。
なんでもかんでも体外受精がよい、というわけではない。本来必要のない人にも体外受精、というのは科学的・医学的にはどうなのかという思いがあります。必要ならば早めに体外受精も大切ではありますが、患者さま個々人の状態や希望を優先するようにしていますね。
より多様な選択肢を提示
日本の不妊治療について、感じている課題があればお聞かせ下さい。
体外受精にはバリエーションがあり、個人差があるのに、均一化して保険制度を適用する点には疑問をいだいています。もう少しバリエーションがある治療に対しても適用できるようになるとより患者さまにとっても保険を活用しやすくなるのではないでしょうか。
例えば、誘発剤の量も、保険診療では開始する量が決められていますが、はじめからもっとたくさん打った方がよい症例もあります。保険診療では、OHSS(卵巣過剰刺激症候群, 排卵誘発剤の投与などで卵巣が過剰に刺激された場合に起こることがある)の予防薬にも制限がありますね。採卵後の、培養室の中で行われる行為も、胚培養管理料として一括して決まってしまっています。
卵子凍結について正しい啓蒙活動を
グレイスバンクと提携した理由や、グレイスバンクに期待していることについてお聞かせいただけますか。
当院は小さなクリニックで、基本的にはすべての患者さまを私が診療しています。となると、人間ですからいつ何が起きるか分からないリスクがあります。

体外受精の患者さまの場合、凍結した卵子はだいたい3年以内には使用しますが、未授精卵子は何十年という期間、凍結して保管しておく可能性もあります。となると、個人のクリニックではセキュリティや管理面での不安があるのは否めません。事実、2011年の東日本大震災の際も、一時的に液体窒素の供給が止まったことがありました。当院はその際は影響をうけませんでしたが、今後首都圏で大地震などが起こった場合を考えると、グレイスバンクさんの提携保管施設であるステムセル研究所は安心感がありますね。
あとは、患者さまへの啓蒙活動にご協力いただけると助かります。卵子凍結については、我々の患者さまに対する啓蒙活動用の資材などもご提供いただけるとうれしいですね。
今後グレイスバンクと実現していきたいことについてお聞かせ下さい。
患者さまにとにかく、勉強の機会を提供していただきたいです。講師を派遣していただくとか、実際には現地まで来られなくても、Webで説明用ビデオを公開いただくのでも有効だと思います。
現在、卵子凍結をされている方々は、ほとんど30代後半の方々です。医師としては、30代前半までに凍結していただけたらうれしいです。
PGTA(着床前診断)の結果が示すように、40歳に近くなるとなかなかよい胚は少なくなってしまいます。また、妊娠できたとしても合併症のリスクは上がりますし、出産後には子育ても控えている。そういったリスクもセットで理解していくべきですし、卵子凍結をしていたとしても、パートナーがいれば一刻も早く妊娠したほうがよいのです。
ただし、女性の選択肢の1つとして、こうした議論ができるようになったこと自体が、大いなる前進だと思います。