セミナーレポート

​​2030年、日本もSRHR先進国を目指して 【後半】

2月28日、女性特有の健康課題とキャリアについて、企業D&I・人事担当者向けの勉強会が開かれました。

任意団体「みんリプ!みんなで知ろうSRHR」、一般社団法人「Woman’s ways」、グレイスグループが、女性のカラダにまつわる情報をしっかりと理解してもらい、全ての女性が生き生きと人生を謳歌しながら、社会の発展に貢献できる環境を整えてもらおうと企画したものです。

イベントには元バドミントン日本代表で、Woman’s ways代表の潮田玲子さん、元バレーボール日本代表でWoman’s ways理事の狩野舞子さん、みんリプ!共同代表の宋美玄医師やグレイス杉山クリニックSHIBUYA院長・岡田有香医師が出席しました。

今回のテーマにはSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ、性や生殖に関する健康と権利)という考え方があります。

SRHRとは、心身ともに満たされた状態で活き活きと生涯を過ごすために、WHO(世界保健機関)や内閣府によっても提唱されている重要な考え方です。

その一方で、日本では世界的に見てもSRHR分野での取り組みが遅れているのが実情です。日本の現状を知って、これからどうしていけばいいのか。勉強会の内容の後編をお伝えします。(前半はこちら)

アスリート時代に知りたかったこと

司会者:現役の選手時代に、もっとこうだったら良かったと思うことはありますか?

潮田:もう全部です(笑)!

大会に合わせてコンディション、睡眠とトータルで考えていたのに、生理のことはどうして無視していたんだろうと思います。

本当にここはもう少し、ホルモンの調子に合わせてトレーニングなどできたらストレスも減って、パフォーマンスも変わったと思うんです。

狩野:月経であるかどうかという質問がトレーナーからあったんですね。

生理があると、パワー系のトレーニングがなかったんです。それがなぜだったのかは、聞かなかったんですね。説明をアスリートも聞くべきだったし、トレーナーから説明があってもよかったなと今は思います。

生理はスポーツ界で理解されていなかった

司会者:これは職場でも同じだと思います。同じ悩みを持つ女性アスリートたちと対話する場もあるようですが、皆さんどんな悩みを持っていますか?

潮田:半年の間、生理がなかったというアスリートもいます。確かにアスリートとして生理がない方が楽というのがあるんです。生理が止まってしまっているほど追い込んでいる人もいるんですが、それによって不調が現れたりします。

10代の高校生のアスリートはその3年、または明日の試合で「人生が決まる」という瞬間があるので、保護者や周りでサポートをしようということをしています。

私たちがセミナーを開いてこういうお話をすると、アスリートたちから「監督やコーチに聞いてほしい」という声があがります。

司会者:周りの人たちの理解が必要でもあると。

狩野:無知なことがたくさんあったのですが、生理周期とは何なのかがわからない選手もいます。PMS(月経前症候群)や月経困難症というものがあったのかと、それを知って安心することもあるんですね。

私も、選手たちに伝えるのは、そこからなんだと気づかされました。

司会者:生理が来ないのは、そもそもまずい状態なのでしょうか。

宋:生理を止める場合はピルなのですが、自然に生理が止まるのは女性ホルモンが欠乏していることが考えられます。思春期でこうなると、骨が弱くなったり、子宮が萎縮することもあります。

新体操などのアスリートはそもそも初経が来なかったり、若いうちに骨折してしまうということもあります。

潮田:生理が来ると「追い込みきれてない」ということを言われる選手もいるんです。本当に間違っていて、怖いなと思います。

宋:普段から生理のこと、自分の体のことを大事にしてもらいたいです。

東京都が卵子凍結の補助へ

司会者私たちの知識レベルを上げる、ということがパフォーマンスを上げることにつながりそうですね。また東京都は2023年度、卵子凍結、AMH検査*の補助を出すと発表しています。

AMH検査:アンチミューラリアンホルモン検査は、血液を採取し卵巣の中に卵子がどれくらい残っているかを調べられる

個人で卵子凍結をしたい人、また卵子凍結を助成している企業に対してもお金を出すという取り組みが始まります。遠い卵子凍結が身近になる人も多いと思うので、卵子凍結について教えてください。

岡田:東京都では前段階として、性教育の見直し、都立学校で産婦人科のヘルスケア相談ができるようになったりしています。

またユースクリニックを立ち上げ中で、妊娠したかもと思った時の「ライン相談窓口」もできたりしています。その中でAMHと卵子凍結の助成開始に向けた調査費用が今年度計上されているのが現状です。

そもそも卵子ってどういうものかというと、出生前に700万個持っているんです。思春期でそれが20〜30万個に減り、閉経ではゼロになるいう形です。

生理の時に外に出る卵子(排卵する卵子)は1〜2個です。それに付随して400〜500個の卵子がなくなっていきます。卵子は新しく作られるものでなく、常に数が減っていく一方なんですね。

またもう一つ「質」というものも知ってほしいです。新たに作られるわけでないので年齢とともに老化すると言われています。

生理周期は様々で、短い人で25日、長い人で38日と、正常の範囲でもそれだけ違うので、人によって減る卵子の数は違います。

AMH検査は、卵子の周りの細胞から出るホルモンの値を検査するので、血液検査でできます。体に残された卵子の数の目安がわかるものです。

低いから妊娠できない、高いから妊娠できるというものではありません。ただ数の目安を調べる目的でやるものです。

年齢によって卵子の数も少なくなります。人によって卵子の在庫数に差があります。自分の体を知るきっかけになるので、自分の体のことを知りたいと思う人はやってもらえたらと思います。

司会者:卵子の数が減る、知ってましたか?

狩野:知りませんでした。

司会者:数がわかるということで、卵子年齢がわかるということですか?

岡田:「卵巣の予備能」というのが正しいんですね。まずは状態を知るのが一番大事だと思います。元々不妊治療の領域では、AMHの値から何個の卵が採卵できるかというのでこの検査の結果を使っていたんですね。

卵子の在庫が少ない人は、不妊治療で「タイミング療法」から「人工授精」、「体外受精」をどれだけ早くステップを上げる必要があるのかを見るために使っていたものなんです。

卵子凍結は選択肢の一つ

司会者私も子宮筋腫ができた時に、第二子のタイミングを考えていたのでAMH検査を受けたんです。思ったよりが年齢が高くて、「急がないと」と思いました。知らなければ焦ることもなかったと思うので、そういう意味ではライフプランの上の一つのきっかけになったと思います。

岡田:AMH検査は7000円〜1万円かかるクリニックが多いので、金銭的な面でできないという人に対して補助が出るということになっています。

卵子凍結は、体外受精の前倒しとして卵子をとって凍結保存することです。

卵子凍結はみなさんがやるべきものということではなく、選択肢の一つです。その選択をするという意味で、まず婦人科にかかってもらい、卵子凍結が必要だと思えば相談してもらえたらと思います。

遅くの妊娠がいい訳ではないのです。早く妊娠・出産にたどりつくというのが、スムーズな妊娠・出産に大切なことだと思っています。

基本的に卵子凍結は避難的な要素だと思っていて、多くの人がやらなくてはいけないというのが問題だと思っています。体外受精は年間45万件行われています。リスクはもちろんゼロでないですが、デメリットは少ないかと思っています。

卵子の生存率はどのクリニックでも80〜90%はキープされています。技術が進化していて、凍結した卵子でも子供に影響は見られないとのデータが出ています。

司会者:卵子凍結という選択について聞きましたが、どう思われますか?

潮田:若いほどいいといいますが、何歳から採卵できるものでしょうか?

岡田:定期的にきちんと生理がきてからですね。やれるかどうかという個人の判断があるので、20歳以上だと思います。

狩野:30歳まで現役で、今も仕事を続けてる中で、子供をほしいと思ってるかというとそうではないんですが、こういう選択肢があることを知るのが大切だと思います。

もしパートナーができて、結婚して子供を作ろうと思った時に、1、2年後にできなかったという時のための方法でもあると思います。周りでもしている人が増えてきて身近だなと思っていたところです。もっといろんな方のお話を聞きたいと思います。

卵子凍結の体の負担は?

司会者:自分が経験されるとして、疑問に思ったところはありますか?

狩野:採卵の時の体への負担はどれくらいなのでしょうか?

岡田:副作用は二点あります。通常の生理周期では一つの卵が排卵されるので、卵子凍結では排卵誘発剤の注射を打ってもらい、一度に10〜20個の卵子を育てます。

そこで卵巣が過剰刺激症候群になるということがあります。気持ち悪い、便秘になる、お腹が張ったりという方が軽症を含めて8%ほどと言われています。

入院レベルにまでなるのは1%以下です。多くの不妊クリニックは重症にならないように誘発剤を使っています。

もう一つが採卵の副作用です。お腹の中の出血と感染が約0.1%ずつと言われています。採卵は卵巣にむけて刺すので痛みがゼロではないです。局所麻酔、静脈麻酔ということもあります。

潮田:採卵して保管する保管量はいくらかかりますか?

岡田:1個1万円年間でかかるところ、15個で5万円ということもあり、クリニックによって違います。当院では、グレイスバンクでの保管も行ってるので15個までで4万5000円になる場合もあります。

広がる企業の卵子凍結サポート

司会者:2019年、大手企業50社1500人のアンケートでは、7割が企業の福利厚生に卵子凍結を入れてほしいという意見がありました。4年前でこんなに関心があるのかと思いました。

すでに国内で福利厚生で入れているところがあります。例えばサイバーエージェントでは40万円上限に補助していたり、通院の際には妊活休暇の取得もあるということです。企業としてどんなサポートがあるといいと思われますか。

岡田:企業として、採卵に来るのに4〜5回の受診があるので抜けられるといいなと思います。 卵子凍結は選択肢広げる一つと考えてもらえたらと思っています。

司会者:今の時代の選択かなと思いますが、宋先生はどう思われるでしょうか?

宋:私は47歳なのですが、同世代の人が10年くらい前(30代後半)に結構したんですね。パートナーがいなかったりで選んだものでした。

そして、実際にその卵子を使ったかというと、知り合いに使った人がいるというくらいなんです。実際は使えなかったり、普通に結婚して普通に妊娠したり、解凍して受精したけれど異常胚で使えなかったりということがありました。

女性の生殖可能な年齢は制限が男性よりも厳しいし、キャリアを築くのと、出産の時期が思いっきり被っていて…産みたいのに産めない、産んだ後も大変という人が多いので、必要な技術だとは思うのですが、企業や公的な補助でコスパが良いかだろうか、とは思っています。

もちろん凍結卵子を使って妊娠して、この子はその卵子がなければ生まれてなかったよねというのは事実。ただこの技術が広まることで、女性の生き様がガラッと変わるとか、社会問題の解決というようには行かないと思っています。

企業や自治体が職が安定したり給与が上がったりと、若いうちにもっと結婚できやすい環境作りに目を向けてほしいですね。

自分でも35歳で産んでなかったらこの卵子凍結を考えていたとは思うので、将来への可能性が広がるのはいいなと思っていますよ。

司会者:オリンピックは4年に1度、現役をどこまでするのかという悩みもあったと思います。

潮田:ありましたね、引退したのは29歳の時で、その時で33歳でオリンピック目指すのか、それとも女性としてのライフプランを選ぶのかとなった時、当時は卵子凍結という選択肢はなかったんです。

それがあれば変わることもあったかもしれないですね。

最近のニュースだと、海外のチームでは、出産の年齢にかかる選手人に対して卵子凍結などを含めた契約などもあるので、スポーツ界も変わってきたなという印象はありますね。

司会者:狩野選手は、卵子凍結について実際にやってみたいという思いはありますか?

狩野:そうですね、本当に今までだったら頭の中になかったものが、周りの友人とかセミナーで身近になっています。

説明を聞いて決めたいことではあるんですが、自分の中の選択肢の中に入ってきてるのが自分の中でも大きいと思います。知ると知らないでは大きな違いがあるなと感じています。

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