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【医師監修】妊娠中のレチノール使用はNG?胎児への影響と知っておくべき注意点

妊娠中のレチノール使用について、不安を感じていませんか?結論として、妊娠中はレチノール製品の使用は推奨されていません。これは、レチノールの過剰摂取が胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性が完全には否定できないためです。この記事では、胎児の器官形成期における具体的なリスクや、医薬品・化粧品のレチノール濃度による注意点を詳しく解説。万が一使用してしまった際の対応や、レチノールに代わる安全な美容成分、妊娠中の肌悩みに寄り添うスキンケア方法まで、専門的な視点からご紹介します。

妊娠中のレチノール使用は避けるべき理由

レチノールとビタミンAの関係性

レチノールは、ビタミンAの一種であり、体内で様々な生理機能に関わる脂溶性ビタミンです。ビタミンAは、皮膚や粘膜の健康維持、視覚機能、そして胎児の正常な発育に不可欠な栄養素として知られています。化粧品や医薬品に配合されるレチノールは、このビタミンAの形態の一つ、またはその誘導体です。

一般的に化粧品に配合されるレチノールには、純粋なレチノール(ピュアレチノール)や、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールなどのレチノール誘導体があります。医薬品では、より強力な作用を持つトレチノイン(レチノイン酸)が使われることもあります。これらの成分は、肌のターンオーバーを促進したり、コラーゲン生成をサポートしたりする効果が期待されています。

ビタミンAは、体内でレチノール、レチナール、レチノイン酸といった様々な形態に変換され、それぞれの役割を果たします。特にレチノイン酸は、細胞の増殖や分化に深く関与しており、その作用が強いため、妊娠中の使用には細心の注意が必要とされています。

レチノールの種類特徴主な用途
純粋レチノール(ピュアレチノール)活性が高く、肌への効果が期待できる一方で、刺激を感じやすい場合がある。化粧品
レチノール誘導体(例:パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール)純粋レチノールよりも作用が穏やかで安定性が高く、肌への刺激も比較的少ない。化粧品
トレチノイン(レチノイン酸)ビタミンAの中で最も活性が高く、非常に強い作用を持つ。医師の処方が必要。医薬品(皮膚疾患治療)

なぜ妊娠中はビタミンAの過剰摂取が問題なのか

妊娠中のビタミンAは、胎児の正常な発育、特に視覚や骨、臓器の形成に不可欠な栄養素です。しかし、必要量をはるかに超える過剰な摂取は、胎児に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。これが「催奇形性」と呼ばれるリスクです。

ビタミンAは脂溶性ビタミンであるため、体内に蓄積されやすい性質があります。特に、妊娠初期の胎児の器官形成期(妊娠4週から10週頃)にビタミンAが過剰に供給されると、胎児の正常な細胞分化や組織形成が阻害され、先天的な奇形を引き起こすリスクが高まると考えられています。

このリスクは、主に経口摂取によるビタミンAの過剰摂取で懸念されます。例えば、ビタミンAを大量に含むサプリメントや、ニキビ治療などで使用される内服薬のレチノイド製剤などが該当します。これらは体内のビタミンA濃度を急激に上昇させるため、妊娠中、特に妊娠を計画している段階から厳しく制限されます。

一方、化粧品に含まれるレチノールについては、経皮吸収される量がごくわずかであるため、内服薬ほどの直接的なリスクは低いとされています。しかし、「念のため」という観点から、多くの専門家やメーカーは妊娠中のレチノール配合化粧品の使用を避けるよう推奨しています。これは、万が一のリスクを避けるための予防的な措置であり、安心安全を最優先する姿勢に基づいています。

したがって、妊娠中は、食品からの適切なビタミンA摂取は必要ですが、サプリメントや医薬品、そして念のためレチノール配合化粧品の使用についても、医師や薬剤師と相談し、過剰摂取を避けることが極めて重要です。

妊娠中のレチノール使用が胎児に及ぼす影響

胎児の器官形成期におけるリスク

ビタミンAはレチノイン酸として細胞内の遺伝子発現を制御する役割を担っていますが、その量が過剰になると、この繊細なバランスが崩れてしまいます。特に神経系、心臓、顔面、四肢などの形成過程に悪影響を及ぼすことが懸念されます。

具体的な奇形や発育への影響事例

妊娠中のレチノール過剰摂取が胎児に与える影響は多岐にわたります。以下に、報告されている具体的な奇形や発育への影響事例をまとめました。

影響を受ける部位・症状具体的な内容
中枢神経系水頭症(脳室に髄液が過剰に溜まる状態)小頭症(脳の発育不全により頭が小さい状態)神経管閉鎖不全(脳や脊髄の形成異常)
心臓血管系心臓奇形(心臓の構造異常、例:大血管転位症、心室中隔欠損症など)
顔面・頭蓋骨口蓋裂(口の中の天井部分に隙間ができる状態)小顎症(下顎の発育不全)耳の奇形(耳の形や位置の異常)眼の奇形(眼球の形成異常)
その他流産、死産のリスク増加胎児の成長遅延骨格の異常

これらの影響は、摂取されたレチノールの量、摂取時期、胎児の感受性などによって異なると考えられています。特に、皮膚科で処方される尋常性ざ瘡治療薬のイソトレチノイン(ビタミンA誘導体)(日本で未承認・自由診療)は、その強力な催奇形性から、妊娠中または妊娠の可能性のある女性には厳重な使用制限が設けられています。化粧品に含まれるレチノールは医薬品に比べて濃度は低いものの、リスクがゼロとは言い切れないため、妊娠中の使用は推奨しないという専門家の見解が一般的です。

妊娠中のレチノール製品使用に関する注意点

妊娠中のレチノール製品の使用に関しては、その種類や濃度によってリスクの程度が異なります。医薬品と化粧品では配合されているレチノールの量や形態が大きく異なるため、それぞれの特性を理解し、適切な対応をとることが重要です。

医薬品と化粧品のレチノール濃度とリスク

レチノールは、医薬品と化粧品の両方に配合される成分ですが、その目的と濃度には明確な違いがあります。特に妊娠中は、製品の種類と配合量に細心の注意を払う必要があります。

医薬品として処方されるレチノール製剤、特にトレチノイン(レチノイン酸)は、非常に高濃度のビタミンA誘導体であり、強力な作用を持ちます。これらの医薬品は、皮膚疾患の治療などに用いられますが、外用薬であっても安全性が確立されていないため妊娠中は使用してはいけません。 

一方、化粧品に配合されるレチノールは、一般的に医薬品に比べてはるかに低濃度です。純粋レチノールやレチノール誘導体(パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールなど)として配合され、肌のハリや弾力、乾燥による小じわのケアなどを目的としています。化粧品は通常、肌表面での作用が主であり、全身への影響は少ないと考えられていますが、妊娠中は肌が敏感になることもあり、念のため使用を避けるのが賢明です。特に、製品によってはレチノールが高濃度で配合されているものもあるため、安易な自己判断は避け、使用中の製品の成分表示をよく確認することが大切です。

分類主な成分例濃度と作用妊娠中の使用
医薬品トレチノイン(レチノイン酸)高濃度。皮膚疾患治療用。強力な作用。外用薬であっても安全性が確立されていないため使用禁止。 
化粧品純粋レチノール、レチノール誘導体(パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールなど)低濃度。肌のコンディションを整える目的。念のため使用を避けるのが賢明。 全身への影響は少ないとされるが、リスクを考慮。

妊娠が判明した場合のレチノール製品の取り扱い

妊娠が判明した場合は、直ちにレチノール製品の使用を中止を推奨している医療機関が多いです これは、医薬品、化粧品を問わず共通の原則です。妊娠初期は胎児の重要な器官が形成される時期であり、この時期の成分摂取には特に注意が必要です。

使用していた製品については、今後の使用を避けるため、適切に保管するか、廃棄を検討してください。妊娠中の肌はホルモンバランスの変化により、これまで使っていた製品でも刺激を感じやすくなることがあります。レチノール製品の中止は、安全な妊娠期間を過ごすための重要なステップとなります。

もし、レチノール製品を使用中に妊娠が判明し、不安を感じる場合は、使用を中止した上で、速やかにかかりつけの産婦人科医に相談してください。 今後のスキンケアについても、医師や薬剤師と相談し、妊娠中でも安心して使える製品や成分についてアドバイスを受けることをお勧めします。

誤って使用してしまった際の対応と相談先

妊娠に気づかず、あるいは知らずにレチノール製品を使用してしまった場合、過度に心配しすぎる必要はありませんが、自己判断せずに、必ず産婦人科医に相談することが最も重要です。

少量かつ短期間の使用であれば、胎児への影響は限定的である可能性が高いとされています。しかし、これはあくまで可能性であり、専門家による判断が必要です。相談の際には、以下の情報を具体的に伝えるようにしてください。

  • 使用していた製品の名称(化粧品か医薬品か)
  • 製品に含まれるレチノールの種類と濃度(不明な場合はパッケージを持参)
  • 使用を開始した時期と期間
  • 使用頻度と量
  • 妊娠判明時の週数

これらの情報に基づいて、医師が適切なアドバイスや検査の必要性を判断します。不安な気持ちを抱え込まず、専門家に相談することで、安心して妊娠期間を過ごすことができます。また、製品のメーカーのお客様相談窓口や、中毒情報センター(例:公益財団法人日本中毒情報センター)なども、一般的な情報提供の相談先として利用できる場合がありますが、最終的な判断は必ず産婦人科医に委ねてください。

妊娠中の肌悩みに寄り添う安全なスキンケア

妊娠中はホルモンバランスの変化により、肌質が不安定になったり、これまで使っていたスキンケア製品が合わなくなることがあります。レチノールの使用を控える間も、肌の健康を保ち、気になる肌悩みに対応できる安全なスキンケアを取り入れることが大切です。

レチノールに代わる美容成分の紹介

レチノールは高い美容効果が期待できる成分ですが、妊娠中は使用を避けるべきです。しかし、レチノール以外にも、妊娠中でも比較的安心して使用できる美容成分は数多く存在します。肌の悩みに合わせて、これらの成分を上手に取り入れましょう。

美容成分期待できる効果妊娠中の使用に関する注意点
ビタミンC誘導体メラニンの生成を抑え、シミ・そばかすを防ぐ美白効果。抗酸化作用、コラーゲン生成促進。安定性が高く、比較的安心して使用できます。高濃度製品は刺激を感じる場合があるため、パッチテストを推奨します。
ナイアシンアミドシワ改善、美白、肌荒れ防止、バリア機能サポート。厚生労働省に承認されたシワ改善・美白有効成分として、妊娠中でも使用可能とされることが多い成分です。
セラミド、ヒアルロン酸肌のバリア機能を強化し、乾燥を防ぐ高い保湿効果。肌のうるおいを保つために非常に重要な成分で、妊娠中の乾燥肌対策に最適です。
グリチルリチン酸ジカリウム肌荒れやニキビの炎症を抑える抗炎症作用。肌の炎症を鎮める効果があり、妊娠中の敏感肌や肌荒れ、ニキビケアに適しています。
アゼライン酸ニキビや赤ら顔の改善、皮脂分泌抑制。海外では妊娠中のニキビ治療薬として使用されていることもあります。医師と相談の上での使用が望ましいです。
ペプチドコラーゲンやエラスチンの生成をサポートし、ハリや弾力を与えるエイジングケア効果。アミノ酸が複数結合した成分で、肌への刺激が少なく、エイジングケアをしたい場合に検討できます。

これらの成分を選ぶ際は、製品全体の成分表示を確認し、香料、着色料、アルコール、パラベンなどの添加物が少ない、低刺激性の製品を選ぶとより安心です。

妊娠中の肌荒れや敏感肌への対策

妊娠中はホルモンバランスの変化だけでなく、つわりによる食生活の変化、睡眠不足、ストレスなども肌状態に影響を及ぼします。肌荒れや敏感肌になりやすい時期だからこそ、基本的なスキンケアと生活習慣の見直しが重要です。

基本的なスキンケアのポイント

  • 優しく洗顔する:肌のバリア機能を守るため、洗浄力の強すぎる洗顔料は避け、ぬるま湯で優しく洗いましょう。泡で出てくるタイプや、刺激の少ないアミノ酸系洗顔料がおすすめです。
  • 徹底した保湿:洗顔後はすぐに化粧水で水分を補給し、乳液やクリームでしっかりとフタをします。セラミドやヒアルロン酸配合の製品で、肌のうるおいを保ちましょう。乾燥がひどい場合は、オイルなどをプラスするのも良いでしょう。
  • 紫外線対策を怠らない:妊娠中はホルモンの影響でシミができやすくなります。日焼け止めは、紫外線吸収剤不使用(ノンケミカル処方)で、SPF値やPA値が高すぎない、肌に優しいタイプを選び、日傘や帽子も活用しましょう。
  • パッチテストの実施:新しいスキンケア製品を使い始める際は、念のため二の腕の内側などでパッチテストを行い、肌に異常がないか確認してから顔に使用しましょう。

生活習慣の見直し

  • バランスの取れた食事:ビタミンやミネラルを豊富に含む野菜、果物、タンパク質を積極的に摂り、腸内環境を整えることも肌の健康につながります。
  • 十分な睡眠:肌のターンオーバーを促し、肌の回復力を高めるためにも、質の良い睡眠を確保しましょう。
  • ストレスの軽減:リラックスできる時間を作り、ストレスを溜め込まない工夫も大切です。

皮膚科医との連携で安心のスキンケアを

妊娠中の肌トラブルは多岐にわたり、自己判断でのケアでは改善が難しい場合や、かえって悪化させてしまうリスクもあります。肌の状態に不安を感じたり、市販のスキンケアでは効果が見られない場合は、迷わず皮膚科を受診しましょう。

  • 専門家による診断とアドバイス:皮膚科医は、妊娠中の肌トラブル(妊娠性痒疹、肝斑、ニキビなど)を正確に診断し、胎児への影響を考慮した上で、安全な治療法やスキンケアのアドバイスを提供してくれます。
  • 妊娠中でも使用できる処方薬:症状によっては、妊娠中でも安全に使用できる外用薬(ステロイド外用薬の一部、抗生物質外用薬など)を処方してもらえることがあります。自己判断で市販薬を使用するよりも、医師の指示に従う方が安心です。
  • 相談時のポイント:受診の際は、必ず現在妊娠中であること、妊娠週数、使用しているスキンケア製品やサプリメント、これまでの肌トラブルの経緯などを詳しく伝えましょう。これにより、医師はより的確な診断と治療方針を立てることができます。

妊娠期間は一時的なものですが、肌は一生ものです。安心してマタニティライフを送るためにも、皮膚科医との連携を積極的に活用し、適切なケアを受けることが大切です。

まとめ

妊娠中のレチノール製品の使用は、ビタミンAの過剰摂取による胎児への影響が懸念されるため、原則として避ける事を推奨している医療機関が多いです。特に妊娠初期の器官形成期は、胎児に奇形などのリスクを及ぼす可能性があり、医薬品・化粧品問わず注意が必要です。もし誤って使用してしまった場合は、速やかにかかりつけの医師や薬剤師に相談しましょう。妊娠中のデリケートな肌には、ビタミンC誘導体やセラミド、ヒアルロン酸など、安全性が確認されている成分を選び、皮膚科医と連携しながら安心できるスキンケアを行うことが大切です。

監修者

名倉 優子 なぐら ゆうこ

日本産科婦人科学会専門医


グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)

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