妊娠中は、体の変化により熱中症のリスクが高まります。熱中症は、母体だけでなくお腹の赤ちゃんにも影響を及ぼすため、正しい知識と対策が不可欠です。この記事では、妊娠中の熱中症がなぜ危険なのか、母体と胎児への具体的な影響、見過ごしがちな症状、効果的な予防策、そして万が一熱中症になった場合の応急処置と病院受診の目安を詳しく解説します。
妊娠中の熱中症はなぜ危険?母体と赤ちゃんへの影響
妊娠中の女性は、非妊娠時と比較して熱中症になりやすいだけでなく、その影響が母体だけでなくお腹の赤ちゃんにまで及ぶため、非常に危険性が高いと言えます。体内の変化と外部環境が重なることで、熱中症のリスクが格段に高まることを理解し、早期の対策が重要です。
妊娠中の体と熱中症リスク
妊娠中は、ホルモンバランスの変化や体の構造的な変化により、熱中症に対する体の抵抗力が低下します。これらの変化が、熱中症になりやすい理由と密接に関わっています。
妊娠中の体の変化と熱中症になりやすい理由
妊娠中の女性の体は、赤ちゃんを育むために様々な変化を遂げます。これらの変化が、熱中症のリスクを高める主な要因となります。
- 基礎体温・基礎代謝の上昇:妊娠中は黄体ホルモンの影響で、常に基礎体温が通常よりも0.3~0.5℃程度高めに維持されます。また基礎代謝は亢進し汗をかきやすく容易に脱水状態になってしまい、体が熱をため込みやすくなり、体温が上がりやすい状態になります。
- つわりによる水分・栄養不足:妊娠初期に多い「つわり」の症状(吐き気、嘔吐、食欲不振)により、水分や栄養を十分に摂取できないことがあります。これが脱水を招き、熱中症のリスクをさらに高めます。
妊娠週数による熱中症リスクの違い
熱中症のリスクは、妊娠の時期によっても特徴があります。
- 妊娠初期(~13週):つわりによる脱水や食欲不振が主なリスク要因です。この時期は胎児の重要な臓器が形成される時期であり、母体の高体温が胎児に与える影響が特に懸念されます。
- 妊娠中期(14~27週):胎盤が完成し、母体の血液量が増加する時期です。活動量が増える妊婦さんもいますが、それに伴い熱中症のリスクも高まります。胎児も急速に成長するため、母体の体調管理がより重要になります。
- 妊娠後期(28週~出産):母体への負担が最も大きくなる時期です。お腹が大きくなることで、体温がこもりやすくなり、少しの活動でも熱中症になりやすくなります。
母体への影響
熱中症は、妊娠中の母体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に脱水症状は、様々な不調を引き起こし、重症化すると命にかかわる事態に発展することもあります。
脱水症状が引き起こす母体の不調
熱中症の初期段階で現れる脱水症状は、母体に以下のような不調を引き起こします。
- 全身倦怠感・めまい・立ちくらみ:体内の水分と電解質のバランスが崩れることで、全身の機能が低下し、だるさやふらつきを感じやすくなります。特に妊娠中は貧血傾向もあり、症状が悪化しやすいです。
- 頭痛・吐き気:脳への血流不足や体内の電解質異常により、頭痛や吐き気が現れることがあります。つわりと症状が似ているため、熱中症と気づきにくい場合もあります。
- 頻脈・血圧低下:脱水により血液が濃縮され、心臓がより多くの血液を送り出そうとするため脈が速くなります。重度になると血圧が低下し、意識障害につながることもあります。
- 腎機能への負担:脱水が続くと、腎臓への負担が増加し、腎機能障害を引き起こす可能性があります。
重症化による臓器への影響
熱中症が重症化すると、母体の複数の臓器に深刻なダメージを与える可能性があります。
- 意識障害・けいれん:脳の機能が低下し、意識が朦朧としたり、けいれん発作を起こしたりすることがあります。これは、命にかかわる危険なサインです。
- 腎不全・肝機能障害:重度の脱水や高体温が続くことで、腎臓や肝臓といった重要な臓器の機能が低下し、急性腎不全や肝機能障害を引き起こすことがあります。
- DIC(播種性血管内凝固症候群):全身の小さな血管で血液が固まりやすくなる重篤な病態で、出血と血栓が同時に起こり、多臓器不全に至る可能性があります。熱中症の重症例で起こり得ます。
- 多臓器不全:上記の臓器障害が複合的に発生し、全身の臓器が機能不全に陥ることで、生命の危機に瀕する状態です。
お腹の赤ちゃんへの影響
母体が熱中症になると、お腹の赤ちゃんにも直接的・間接的に様々な悪影響が及ぶ可能性があります。
胎児への熱の影響
- 胎児発育不全:母体の高体温や脱水により、胎盤への血流が減少すると、胎児への酸素や栄養の供給が滞り、発育が遅れる可能性があります。
- 胎児の心拍数増加・胎動の変化:胎児が高体温やストレスにさらされると、心拍数が増加したり、胎動が減少したりすることがあります。これは、胎児が苦しんでいるサインである可能性があります。
- 羊水量の減少:母体が脱水状態になると、羊水の生成にも影響が出ることがあり、羊水量が減少する可能性があります。羊水は胎児を保護し、成長を助ける重要な役割を担っています。
流産や早産のリスク
熱中症は、流産や早産のリスクを高める要因となりえます。
- 胎盤機能の低下:熱中症による母体の血流悪化は、胎盤への血流も低下させます。胎盤の機能が低下すると、胎児への酸素や栄養の供給が不足し、胎児の生命維持に影響を及ぼすことがあります。
- 母体の全身状態悪化による影響:熱中症が重症化し、母体の意識障害や多臓器不全といった状態に陥ると、胎児への影響も避けられず、緊急の医療介入が必要となる場合があります。
妊娠中に注意すべき熱中症の症状
妊娠中の体は、通常時とは異なる変化を経験しており、熱中症の症状も様々に現れる可能性があります。特に、妊娠週数によって現れやすい症状や、他の妊娠中の不調と区別がつきにくい症状もあるため、注意が必要です。
妊娠初期に現れやすい熱中症の症状
妊娠初期は、つわりによる吐き気や嘔吐、めまい、だるさといった症状が日常的に現れるため、熱中症の初期症状と混同しやすい時期です。しかし、熱中症による症状は、これらが悪化したり、普段とは異なる形で現れたりすることがあります。
具体的な症状としては、めまいや立ちくらみが頻繁に起こる、吐き気や嘔吐がひどくなる、全身の強いだるさ、頭痛などが挙げられます。つわりによる脱水症状が熱中症を悪化させることもあるため、特に注意が必要です。また、妊娠初期は体温調節機能が未熟なため、少しの体温上昇でも不快感や体調不良を感じやすくなります。普段よりも喉の渇きが強い、尿量が少ない、尿の色が濃いといった脱水のサインにも気をつけましょう。
妊娠中期・後期に現れやすい熱中症の症状
妊娠中期から後期にかけては、子宮が大きくなることで血管が圧迫され、血流の変化が起こりやすくなります。また、循環血液量が増加し、発汗量も増えるため、体内の水分や塩分が失われやすくなります。これにより、熱中症のリスクが高まり、より重篤な症状が出やすくなる可能性があります。
この時期に注意すべき症状は、強い倦怠感、発熱(38℃以上)、筋肉のけいれん(こむら返りなど)、意識の混濁やぼんやりする状態、皮膚の乾燥、めまいによる熱失神、脱水による熱疲労などです。さらに進行すると、意識障害や高体温(39℃以上)、けいれんを伴う熱射病へと移行する危険性も高まります。お腹の赤ちゃんへの影響も懸念されるため、これらの症状が見られた場合は、速やかな対応が求められます。
普段と異なる異常な症状に注意
妊娠中は、むくみや貧血、立ちくらみなど、熱中症の症状と似たような不調が起こりやすいものです。そのため、「いつものこと」と見過ごしてしまいがちですが、「いつもと違う」「急激に悪化した」「水分を補給しても改善しない」といった変化には特に注意が必要です。
例えば、安静にしているのに脈拍が速い、呼吸が荒い、皮膚が異常に熱いのに汗が出ていない、頭痛がひどくて動けない、手足がしびれる、ろれつが回らない、意識が朦朧とする、けいれんが起こるなどの症状は、熱中症が進行しているサインである可能性が高いです。これらの異常な症状に気づいたら、決して自己判断せず、速やかに医療機関に相談することが重要です。
危険なサインを見逃さないで
熱中症の症状は、その重症度によって段階的に進行します。以下の危険なサインを見逃さず、適切なタイミングで対処することが、母体と赤ちゃんの健康を守るために不可欠です。
- 軽症(I度):めまい、立ちくらみ、生あくび、筋肉痛、こむら返り、手足のしびれ、全身の倦怠感。
- 中等症(II度):頭痛、吐き気、嘔吐、集中力や判断力の低下、意識がぼんやりする、体がだるくて力が入らない。
- 重症(III度):意識障害(呼びかけに応じない、返事がおかしい、意識が消失する)、けいれん、高体温(39℃以上)、呼吸が速いこれらの重症のサインは、命に関わる非常に危険な状態を示しています。この段階に至る前に、速やかに医療機関を受診するか、緊急性の高い場合は救急車を要請する必要があります。

妊娠中の熱中症予防策の基本
妊娠中は、ホルモンバランスの変化や体温調節機能の変動により、熱中症になりやすい状態です。母体だけでなくお腹の赤ちゃんのためにも、積極的な熱中症予防が不可欠です。日々の生活の中で意識的に対策を取り入れ、安全な夏を過ごしましょう。
こまめな水分・塩分補給のポイント
妊娠中は血液量が増加し、発汗量も増えるため、脱水になりやすい傾向があります。喉の渇きを感じる前に、意識的に水分と塩分を補給することが重要です。
適切な飲み物と摂取量
水分補給の基本は、水や麦茶、カフェインの含まれていないほうじ茶などです。これらは利尿作用が少なく、体に必要な水分を効率的に補給できます。スポーツドリンクは塩分や糖分が含まれていますが、糖分の摂りすぎに注意し、飲みすぎないようにしましょう。喉が渇く前に、少量ずつこまめに飲むことが大切です。一度に大量に飲むのではなく、コップ1杯程度を1~2時間おきに摂取する習慣をつけましょう。一日の目安としては、食事以外に1.5リットルから2リットル程度の水分摂取を心がけてください。冷たすぎる飲み物は胃腸に負担をかけることがあるため、常温か、少し冷たい程度のものがおすすめです。
一方で、カフェインを多く含むコーヒーや紅茶、緑茶、また糖分が多く含まれる清涼飲料水やジュースは、利尿作用があったり、血糖値の急激な上昇を招いたりする可能性があるため、水分補給としては適していません。これらは控えめにしましょう。
塩分補給の注意点
汗を大量にかくことで、水分だけでなく体内の塩分(ナトリウム)も失われます。塩分が不足すると、めまいや立ちくらみ、筋肉のけいれんなどを引き起こすことがあります。塩分補給には、梅干し、塩飴、味噌汁などが手軽で効果的です。また、食欲がない時や発汗量が多い時には、経口補水液も有効な選択肢となります。ただし、塩分の摂りすぎはむくみや妊娠高血圧症候群のリスクを高める可能性もあるため、バランスを意識し、過剰摂取にならないよう注意が必要です。普段の食事で適度に塩分を摂ることを基本とし、必要に応じて補給するようにしましょう。
快適な服装と環境づくり
熱中症予防には、体から熱を逃がしやすい服装選びと、室内環境の適切な管理が欠かせません。
通気性の良い服装選び
外出時も室内でも、吸湿性や通気性に優れた素材の服を選びましょう。綿や麻、レーヨンなどの天然素材は汗を吸いやすく、肌触りも良いのでおすすめです。ポリエステルなどの化学繊維でも、吸汗速乾機能のあるものは効果的です。また、ゆったりとした締め付けないものを選び、血行を妨げないようにすることが大切です。体の熱がこもりにくい、明るい色の服を選ぶと、直射日光による熱の吸収を抑えられます。
エアコンや扇風機を上手に活用
室内では、エアコンや扇風機を適切に活用して、快適な室温と湿度を保ちましょう。エアコンの適切な設定温度は26~28℃を目安とし、冷えすぎないように注意が必要です。除湿機能も積極的に利用し、湿度を50~60%程度に保つことで、汗が蒸発しやすくなり、体感温度を下げることができます。扇風機は、直接体に風を当てるよりも、室内の空気を循環させる目的で使うのが効果的です。窓を開けて換気をしたり、遮光カーテンやすだれなどを利用して日差しを遮ったりすることも、室温上昇を防ぐのに役立ちます。
外出時の注意点
暑い季節の外出は、特に注意が必要です。無理のない範囲で、計画的に行動しましょう。
暑い時間帯を避ける
日中の最も暑い時間帯(午前10時から午後2時頃)の外出は極力避け、朝の早い時間帯や夕方涼しくなってから外出するようにしましょう。どうしても日中に外出が必要な場合は、商業施設など、冷房が効いていて涼しい場所を選ぶように心がけ、こまめに休憩を取りましょう。移動は公共交通機関を利用したり、タクシーを利用したりするなど、できるだけ体への負担が少ない方法を選びましょう。
日傘や帽子を活用
外出時には、直射日光を避けるための必須アイテムとして、日傘や帽子を必ず活用しましょう。UVカット機能付きの日傘は、日差しを遮るだけでなく、体感温度を下げる効果も期待できます。帽子は、通気性の良い素材で、つばの広いものを選ぶと良いでしょう。また、首元を冷やすネッククーラーや、冷却シート、携帯扇風機などの冷感グッズも有効です。日陰を選んで歩く、休憩場所を事前に調べておくなど、工夫して行動しましょう。
食事と休息で体調を整える
日頃からの体調管理も、熱中症予防の重要な要素です。バランスの取れた食事と十分な休息で、体の抵抗力を高めましょう。
栄養バランスの取れた食事
疲労回復、体力維持のために重要なのが、栄養バランスの取れた食事です。特に、夏バテで食欲が落ちやすい時期でも、ビタミンやミネラルを豊富に含む野菜、果物を積極的に摂取しましょう。カリウムは体内の余分なナトリウムを排出する働きがあるため、きゅうり、トマト、スイカなどに多く含まれています。消化に良いものを中心に、少量ずつでも回数を分けて食べるなど、工夫して栄養を補給しましょう。
十分な睡眠と休息
睡眠不足や疲労は、体温調節機能を低下させ、熱中症のリスクを高めます。質の良い睡眠を確保し、日中の疲れをしっかり取るようにしましょう。夜間に寝苦しい場合は、寝具を工夫したり、寝る前にエアコンで部屋を冷やしておくなどの対策も有効です。また、日中に疲労を感じたら、無理をせず短時間の昼寝を取り入れるなど、こまめな休息を心がけましょう。体調が優れないと感じたら、活動を控え、体を休ませることが何よりも大切です。
もし熱中症になってしまったら?応急処置と病院受診の目安
妊娠中に熱中症の症状が現れた場合、迅速かつ適切な対応が母体と赤ちゃんの健康を守るために非常に重要です。軽症の場合の応急処置から、病院を受診すべき危険なサイン、そしてどこに連絡すべきかまで、具体的な対処法を知っておきましょう。
軽症の場合の応急処置
めまいや立ちくらみ、軽い頭痛、吐き気など、比較的軽度な熱中症の症状が見られた場合は、まず以下の応急処置を試みてください。
涼しい場所への移動と体を冷やす方法
熱中症の症状を感じたら、まず日陰やエアコンの効いた涼しい室内など、すぐに涼しい場所へ移動してください。横になり、衣服を緩めて体を締め付けないようにしましょう。その後、体温を下げるために以下の方法で体を冷やします。
- 首の付け根、脇の下、足の付け根(鼠径部)など、太い血管が通っている部分を冷やすと効果的です。濡らしたタオルや保冷剤(直接肌に当てず、タオルなどで包んで使用)を活用しましょう。
- 体を冷たい水で濡らしたタオルで拭いたり、霧吹きで水を吹きかけたりして、扇風機やうちわで風を送り、気化熱で体温を下げるのも有効です。
- 氷嚢などがあれば、頭や脇の下、足の付け根に当てて冷やしましょう。
水分補給の再開
涼しい場所へ移動し体を冷やしながら、意識がはっきりしていることを確認した上で、水分補給を再開してください。吐き気がある場合は無理に飲まず、落ち着いてから少量ずつ摂取しましょう。
- 経口補水液やスポーツドリンクなど、水分だけでなく塩分や糖分も補給できる飲料が適しています。
- 一気に大量に飲むのではなく、コップ半分程度の量を10~15分おきに、ゆっくりと時間をかけて少しずつ飲むように心がけてください。
- 吐き気がひどい、意識がはっきりしないなど、自分で水分が摂れない場合は、無理に飲ませようとせず、すぐに医療機関を受診してください。
病院を受診すべき症状とタイミング
軽症の応急処置を行っても症状が改善しない場合や、以下のような重い症状が見られる場合は、迷わず医療機関を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。妊娠中の体はデリケートであり、熱中症が重症化すると母体だけでなく赤ちゃんにも深刻な影響を及ぼす可能性があるため、「いつもと違う」「おかしい」と感じたら、ためらわずに専門家の判断を仰ぎましょう。
意識障害やけいれんなど重症のサイン
以下の症状は、熱中症が重症化しているサインです。一刻を争う状況ですので、すぐに救急車を要請してください。
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに応答しない、意識がない。
- 全身のけいれんを起こしている。
- 体が熱いのに汗をかいていない、または皮膚が異常に乾燥している。
- 体温が38.5℃以上の高熱が続いている。
- まっすぐに歩けない、ふらつきがひどい。
- 手足のしびれや麻痺がある。
- 呼吸が異常に速い、または不規則。
- 脈が速い、または弱い。
- 吐き気や嘔吐が止まらない。
- 頭痛がひどく、我慢できない。
これらの症状が見られた場合、妊娠中であることを救急隊員に必ず伝えましょう。
症状が改善しない場合
軽症の熱中症と判断し、涼しい場所への移動や水分補給などの応急処置を試みたにもかかわらず、症状が30分以上改善しない場合や、むしろ悪化していると感じる場合は、医療機関を受診すべきタイミングです。自己判断で様子を見すぎると、重症化するリスクが高まります。
また、胎動がいつもより少ない、または全く感じられないなど、お腹の赤ちゃんの様子に異変を感じた場合も、すぐに医療機関に連絡し指示を仰ぐ必要があります。
どこを受診すべきか
熱中症の症状が見られた際に、どこを受診すべきか迷うこともあるでしょう。妊娠中の場合は、特に注意が必要です。
かかりつけの産婦人科への連絡
熱中症の症状が出た場合、まずかかりつけの産婦人科に電話で連絡し、現在の症状と妊娠週数を伝え、指示を仰ぐのが最も適切です。産婦人科医は、母体と胎児の両方の状態を考慮した上で、適切なアドバイスや受診の必要性を判断してくれます。
夜間や休日でかかりつけの産婦人科に連絡が取れない場合は、地域の救急相談窓口に電話して相談することも検討してください。
緊急時の救急要請
前述の「意識障害やけいれんなど重症のサイン」に該当する症状が見られる場合は、迷わず119番に電話し、救急車を要請してください。この際、必ず「妊娠中であること」「妊娠週数」「現在の症状」を明確に伝えることが重要です。救急隊員が到着するまでの間も、できる範囲で体を冷やすなどの応急処置を続けましょう。
「もしかしたら」ではなく、「もしもの時」に備えて、妊娠中の熱中症に関する知識を深め、冷静に対応できる準備をしておくことが大切です。
まとめ
妊娠中の熱中症は、母体だけでなくお腹の赤ちゃんにも深刻な影響を及ぼす可能性があります。脱水症状や体温上昇は、母体の不調はもちろん、流産や早産のリスクを高めることも。そのため、日頃からの予防が何よりも重要です。こまめな水分・塩分補給、涼しい環境づくり、体調管理を徹底しましょう。もし熱中症の症状が現れた場合は、決して無理せず、すぐに体を冷やすなどの応急処置を行い、症状が改善しない場合や意識障害など重いサインが見られたら、迷わずかかりつけの産婦人科や救急医療機関を受診してください。適切な知識と早めの対応で、母子ともに健やかな妊娠期間を過ごしましょう。

名倉 優子 なぐら ゆうこ
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