地域で代々信頼されてきた三枝産婦人科医院。理事長の三枝万里子医師は、普段は医師として女性とお産に寄り添う一方で、自身が舞台を見て生きる力をもらったことをきっかけに、プロのイリュージョニスト(マジシャン)として、子どもたちとそのお母さんたちに楽しい時間を提供する活動も行っています。
医師として、そしてときにはイリュージョニストとして、一見全く違うことをしているようで、どちらの活動においても子どもと女性にひたむきに向き合い続ける三枝医師の思いとこれまでについて、おうかがいしました。
多くの患者さんから学んだ女性の生きる姿
私の父は産婦人科医であり、祖父も外科病院を経営していたため、幼い頃から医師は身近な存在でした。いつも父が、産婦人科は医療の中で唯一「おめでとうございます」と言える診療科だよと教えてくれていたのをよく覚えています。父が女性を応援する姿をそばで見て育ち、私自身もなんとなく産婦人科を選んでいました。
私が研修医のときに、キャリアのある先生と2人でお産に立ち会ったことがありました。その時に、赤ちゃんの心音が落ちてしまい、一緒にいた先生は冷静に「もう無理でしょう」と判断されたのですが、私はとにかく赤ちゃんに息を吹き返してもらいたくて必死に刺激を与えたりしていました。
今思い返すと、医師として冷静さにかけた行動でしたが、あとから患者さんが「あのとき、女医さんが一生懸命やってくれていたから病院を責める気はないです」と言ってくださったのを、今でも鮮明に覚えています一生懸命に赤ちゃんを産もうとしたお母さんだからこそ、私の必死な想いも伝わったのかと思うと、本当にお母さんは命を懸けて子どもを産み、それはお母さんにしかわからない体験だと感じました。
いまだに結婚して子どもができるのが当たり前、子どもを産むのも当たり前という感覚の人も多いのですが、お産は100%安全ではありません。お産は昔から危険が伴うもので、生まれてくるときにスムーズにお産が進まず、生まれてきたら赤ちゃんが亡くなってしまい、お母さんが悲しい思いをする現場もありました。
また、東京大学医学部付属病院での勤務時代には、婦人科のがんの患者さんが、お見舞いに来られる家族と過ごす姿を見て、患者さんは家庭に戻れば子どものいるお母さんであり、家庭を円満に守っていく重要な存在だという気づきを得られました。当時まだ新人だったこともあり、それまではイチ患者さんとしか見ていませんでしたが、患者さんのバックボーンを考える経験ができました。
そして、がんと闘っている女性の患者さんたちが、いろんな思いを抱えつつも、自分のためというよりも、家族のために闘っている姿をみて、家族で大切な時間を過ごせる様にしてあげる事も医師の大きな仕事の1つだと学びました。
私が麻酔科に移動になったときに、婦人科の患者さんたちがお友達同士でわざわざ麻酔科まで来てくれたことがありました。「先生、いいカツラがあったら教えてほしい」と私がオシャレなカツラに詳しいと思って、入院している診療科と違う科まで訪ねてきてくれたのです。今思うと、慣れない環境の麻酔科に移動した研修医の私を元気づけに来てくれたのだと思います。そういう患者さんの前向きな姿や、家族のために笑顔を忘れず、オシャレに気を遣って努力している姿は今でも心の励みとなっています。
人生のひとつの過程としてのお産を提供
三枝産婦人科医院はお産専門のクリニックです。クリニックを開設した父の理念は、品格を持ってお産を人生の大切な過程のひとつとしてとらえるということです。父は築地産院で非常に多くのお産の経験を積んだ後、どのようなお産にでも対応するという形で開業しました。
人として人を産むということは、人生においてさまざまな勉強が必要で、お産の体験を通してお母さんも大人になる大切なチャンスです。父は、お産は女性にとって一生のうちの一つの重要な過程であるということを大切にして、単にお産をサポートするだけでなく、女性がお母さんになってもいつも美しくいられるようにと、開業当初からエステなどのサービスを提供しています。また食事にも気を配り、家庭的で美味しく、自宅での料理に活かせるような心温まるお食事を提供しています。
現在では、当クリニックにて生まれた子どもたちが大きくなり、大人になってからまた子どもを産み、その子どもたちもまた子どもを産むという母子三代にわたってご来院いただいており、皆様の信頼に支えられて頑張っております。
また、無痛分娩にも対応しており、多くの方からご希望をいただいております。しかし、無痛分娩は、患者さんの希望を尊重すると赤ちゃんが危険な状態になることもあり、経験に基づく見極めが重要なお産です。その点、当院の医師は周産期医療のエキスパートが揃っており、開業してから現在に至る30年以上、大きな事故なく運営していますので、安心感を持って受けていただけると思います。
クリニックのある西葛西はインドの方が多く住んでいる場所で、外国人の方にも口コミで信頼して頂き、たくさんの皆様にご来院いただいております。院長も受付スタッフも英語が堪能ですので、丁寧な対応が可能です。
みんなで楽しめて母子の自立につながる体験を
私はプロのイリュージョニスト(マジシャン)としても活動しています。自分がある舞台を見たときに、生きる力をもらったことがありました。自分自身が病気にかかったときに、精神力や気力の重要さを感じましたし、がんの患者さんやその家族の方を見ていると、「病気と闘って頑張って回復したい」と思うときには、夢と、支えてくれる人がいる事がとても必要だと思います。
人間は何がきっかけとなって、キラキラしたり、夢を持てたりするようになるかはわかりませんが、私自身は家族で楽しめる温かな時間を持つことがとても大切だと思うので、たくさんの人と一緒に楽しめる、脳裏に焼き付くような楽しい時間をお母さんや子どもたちに提供したいと思うようになりました。
不思議なことや驚くようなことをみんなで体験すると、「え、なんで?」と知らない人とも会話が弾み、自然と仲良くなれます。それは世界共通にみられる現象です。マジックは、言葉に頼らずに楽しめる芸能なので年齢や国籍を超えてグローバルに楽しんでいただけます。
特に私のショーでは、子どもたちが舞台に参加できる機会をたくさん提供しています。最初は勇気が持てずにお母さんの後ろに隠れていた子どもたちも、私のショーを見ると一緒にやってみたいという気持ちに変わり、舞台の上で一生懸命に自立して頑張る姿を見せてくれます。その子どもたち成長している姿を見て、お母さんも子育てを頑張ってきてよかったなと思い、涙する場面も多くあります。ショーを通して、100人のうち1人でも、お母さんが病気になったときなどに、お母さんを支えようというような、子どもたちの自立心の芽生えになれたらと願っています。
また、ショーには養護施設の子どもたちも招待しています。生まれたときは誰もが平等なのに、育つ環境によって大きな差が生じ、あんなに生き生きしていた子どもたちが何年か経つと苦しんでつらい思いをすることもあります。環境の影響力は大きいため、何かのきっかけでよい方向にも向かうと信じて、お産で子どもが生まれたあとにも、その子どもたちの生きていく過程に少しでも携わることができたらと思っています。
ショーは、私の生きがいでもあります。医師でイリュージョニストでもある自分にしかできないサポートで、これからもお母さんや子どもたちとの出会いを大切にし続けたいと思います。
女性が自分の身体に向き合い、選択できる社会に
長らく産婦人科は敷居が高く、裏口からでないと入りづらいと言われる時代もありました。しかし、ピルのオンライン診療や先進的な不妊治療なども普及してきて、少しずつオープンな社会になってきています。
オンラインでのピルの処方は、女性が自分の心身に向き合うための一歩を踏み出す手段や利便性の面からはよい方法だと考えます。ただし、ピルには血栓症などの大きな副作用があるため、一度診察を受けて、患者さん自身で健康チェックをしっかり行えることや、出血などのトラブルがあったときに医師に相談できる体制が整っていることも必要です。知識のない人がピルを求めてオンライン診療を受けることも多いので、患者としっかりと向き合い、適切な処方を行える医師の姿勢と技量も大切だと感じます。
不妊治療に関しても、子どもを産むことが当たり前で産めないことが悪いという偏った考え方から脱却して、女性が直面する問題に対してもっとクリアにオープンにできる社会を築くことが大切だと思います。子どもが望めなかったときに、不妊治療以外にも卵子凍結などの女性が選べる選択肢が増え、社会としてのシステムが整備されていくことに期待しています。
まだ日本では、かかりつけの産婦人科を持つ女性は少ないですが、海外では小学生や中学生でもかかりつけの産婦人科を持っていることが一般的です。女性の身体は一生にわたってホルモンのバランスが変化し、出産や不妊症、更年期などもあります。一般の内科では相談しづらいことも多いのに、十分に信頼できる場所が少なすぎるのが現状です。
子どもの身体の発達が早まっている中で、小学生でも妊娠のリスクを考慮する必要がありますが、日本の性に関しての教育は不十分です。また、女性は毎月の生理での出血やイライラするなどのホルモンの変化などによる体調の変化を抱えながら、男性と同じように社会で活躍することを求められる場面が増えています。低用量ピルの活用も含めて、女性自身が女性の身体についての知識を得て、健康や精神面を整えながら仕事をすることがとても大切だと考えます。
近年では、インターネットが普及し、情報を手軽に入手できるようになってきました。しかし、信頼性のない情報や個別の状態に対応していない情報も多く、自己判断が難しいこともあります。だからこそ、女性の健康について、いつでも相談できる、信頼のおける産婦人科のかかりつけ医を子どものうちから保護者が見つけておくことが重要です。
産婦人科を受診するにあたっては、女医さんを希望する気持ちもわかります。しかし、診療は人と人の関わりであり、相性が大切です。男性の先生でも気が合う先生がいるかもしれません。なので、女医がいいと決めつけるのではなく、とにかく病院に足を運んで、先生と直接会ってお話することをアクティブに取り組んでほしいと思います。
体調が悪くなってからの病院探しでは、「どこでもいいから薬さえもらえたら」と焦ることもあるでしょう。なので、ぜひ元気なうちに健康診断や相談などに訪れて、相性のよい先生に早く巡り会う努力をしていただきたいですね。
※この記事は2023年7月のインタビューを元にしています。最新の情報はクリニックHPをご覧ください。
※三枝産婦人科医院公式HPはこちら:https://www.saigusa.or.jp/