「ピル」と聞くとどのようなお薬を想像しますか?避妊のためのお薬というイメージを持たれる方もいらっしゃると思いますが、ピルはPMSや生理痛の緩和や子宮内膜症の治療のために処方されることもあります。
避妊と聞くと「将来の妊娠への影響」を気にされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そもそも「ピル」とはどんなお薬なのか、どんな種類があるのか。今回は「ピル」の基礎知識と気になる疑問にお応えします。
目次
そもそも「ピル」ってどんな薬?
ピルとは、女性の卵巣で作られる「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」が含まれている合成ホルモン剤のことを言います。それぞれのホルモンの配合量の違いによって超低用量ピル、低用量ピル、中用量ピル、アフターピルと呼び方が異なり、期待できる効果などが異なります。
ピルには避妊や月経のコントロール以外にもメリットがあり、生理痛・生理不順、子宮内膜症、排卵痛の改善、月経前症候群(PMS)の改善、ニキビ・肌荒れの改善、卵巣がん・子宮体がんの予防や改善といった効果があります。
低用量ピルは、飲み始めから生理が来るまでの周期ごとにシートが分かれていて、28日を1周期(1クール)として1日1錠、毎日決まった時間に、決まった順番で服用します。基本的には、生理(月経)の初日から3日以内に服用を開始します。
ピルの飲み忘れなどがあると避妊効果が下がってしまうので注意が必要です。「休薬期間」やホルモンの成分が入っていない錠剤を服用する「偽薬期間」も、次のシートを問題なく始めることで避妊効果が継続します。
副作用として、飲み始めてから2〜3ヵ月の間、吐き気、不正出血、むくみといった症状が続くことがあります。これらはマイナートラブルと言われていますが、深刻な場合は血栓症、心筋梗塞、脳卒中になるリスクが少し高くなることが指摘されています。日常的にタバコを吸う人、高血圧の人、肥満の人などはさらに血栓症のリスクが上がるので、服用の際は注意が必要です。
下記の症状が出たら服用を止め、病院で相談をするようにしましょう。
- 突然の足の痛みや腫れ
- 手足のしびれ
- 押しつぶされそうな胸の痛み
- 息苦しさ
- 激しい頭痛
ピルの飲み始めは体内のホルモンバランスが低用量ピルの服用によって変化することからマイナートラブルの症状が出やすくなります。飲み続けることで体内のホルモンバランスが整い、症状も治っていきますので、まずは3ヶ月ほど飲み続けることをおすすめします。ただ、あまりにも症状がひどい場合などは、低用量ピル以外の原因がある可能性がありますので、医師に相談するようにしましょう。
ピルには種類がある
ピルはホルモンの配合量の違いによって超低用量ピル、低用量ピル、中用量ピル、アフターピルと呼び方が異なります。
その中でも、超低用量ピル・低用量ピルは「世代」と「相性(そうせい)」によってさらに細かく分類することができます。
「世代」黄体ホルモンの種類により第一世代、第二世代、第三世代、第四世代と分けられます。
世代 | 特徴 |
第一世代ノルエチステロン(NET) | 月経困難症や子宮内膜症の治療効果も高い経血量の減少ニキビ・肌荒れの改善効果 |
第二世代レボノルゲストレル(LNG) | 不正出血がしにくい生理周期のコントロールに適している |
第三世代デソゲストレル(DSG) | 「男性ホルモン化作用」が少なく、ニキビ・体毛の増加などを防ぎやすい |
第四世代ドロスピレノン | 子宮内膜症や月経困難症の治療に使用される他世代よりホルモンの含有量が少ないため副作用がでにくい国内で避妊効果に関する検証が行われていないため、避妊目的での処方はされていない |
「相性(そうせい)」女性ホルモンが配合されている錠剤(実薬)のホルモン量によって2種類に分けられます。
相性 | 特徴 |
1相性 | 21錠の実薬に含まれるホルモン量が一定 |
3相性 | 21錠の実薬に含まれるホルモン量が自然な女性ホルモン量の変化に合わせて3段階に分かれている |
主なピル一覧
★は保険適用は適用されるピル
超低用量ピル <第一世代> ・ルナベルULD(1相性)★ ・フリウェルULD(1相性)★ <第二世代> ・ジェミーナ(1相性)★ <第四世代> ・ヤーズ(1相性)★ ・ヤーズフレックス(1相性)★ ・ドロエチ(1相性)★ | 「月経困難症」や「子宮内膜症」の治療目的で使用されます。 保険が適応されます。 日本では、避妊を目的とした処方は行われていません。 |
低用量ピル <第一世代> ・ルナベルLD(1相性)★ ・フリウェルLD(1相性)★ ・シンフェーズ(3相性) <第二世代> ・トリキュラー(3相性) ・ラベルフィール(3相性) ・アンジュ(3相性) <第三世代> ・マーベロン(1相性) ・ファボワール(1相性) | お薬に含まれる卵胞ホルモン(エストロゲン)が0.05mgより少ないものを指します。 主に避妊目的で使用されるピルで、正しく服用すれば99.7%という高い避妊効果が期待できます。 |
中用量ピル ・プラバノール | 低用量ピルよりも卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が多いお薬です。 「生理不順」や「過多月経」、「月経困難症」などの改善効果が期待でき、治療薬として使われます。 生理日を移動させるために使われることもあります。 |
アフターピル | 黄体ホルモンを主成分としており、緊急避妊薬として使われます。 妊娠の可能性がある性交後、72時間以内に1錠のアフターピルを服用することで、約84%の避妊効果が期待できます。 性交から時間が経つにつれて避妊効果は下がってしまうので、なるべく早く飲むことが重要です。 |
気になるピルの疑問①|どうすれば保険適用になるの?
医師の診療の結果、月経困難症や子宮内膜用などの「病気の治療の一環として低用量ピルの服用が必要」と判断し処方したものに健康保険が適用されます。
避妊を目的とする場合は健康保険適用外となります。月経移動も同じく保険適用外です。
現在、保険適用となるピルの種類は以下のとおりです。
- ルナベルULD
- フリウェルULD
- ルナベルLD
- フリウェルLD
- ヤーズ
- ヤーズフレックス
- ドロエチ
- ジェミーナ
気になるピルの疑問②|ピルを飲み続けていると将来妊娠しにくくなる?
ピル服用によって将来妊娠しにくくなることはありません。ピル服用中は薬の作用で排卵が抑えられていますが、服用を止めると1〜3ヶ月間かけて自然な月経周期を回復し排卵がおこるようになり、妊娠が可能になります。
むしろピルの服用中は排卵が止まるため、卵巣を休ませる効果が期待できます。卵巣がんにかかるリスクが低減されるなど、卵巣を良好な状態に保つことができます。
気になるピルの疑問③|排卵が止まるということは卵子の数の減少も防ぐことができる?
卵子の数は年齢とともに減少することをご存知でしょうか?
女性は生まれる前から卵子の元になる細胞(原始生殖細胞)を持っています。そして原始生殖細胞が細胞分裂をして卵子(卵原細胞)が作られます。その卵子(卵母細胞)を体細胞で包んでいる構造を原始卵胞と言います。
しかしその全ての卵子(卵母細胞)が作られるのはまだあなたがお母さんのお腹の中にいる胎児の時の一度きりです。
胎児の時には最大で700万個ある卵子(卵母細胞)ですが、時間の経過とともに自然と数を減らしていきます。
赤ちゃんとして生まれてくる時にはすでに200万個にまで減っていて、月経が始まる頃には20〜30万個となります。そして月経のたびに約1,000個ずつ減っていくと言われていて、歳を重ねるごとに「常に減り続ける」のです。
卵巣内の1,000個の原始卵胞の中でそれぞれ卵子が作られていき、タイミングのあった卵子が排卵されていきます。10代で30万個あった卵子は20代では10万個、30代では2〜3万個となりその数が1,000個をきると閉経してしまいます。
子宮内膜症治療や生理痛緩和、避妊のために飲む低用量ピルは、排卵を止める作用があります。「排卵しないから、卵子の数は減らないのでは?」と誤解されがちですが、卵子は加齢とともに体内で自然消滅します。そのためピルを服用していても、卵子の減少が止まることはありません。しかし、ピルを内服することで子宮内膜症の悪化を防ぎ、結果的に病気にともなって卵子の在庫が減ることを防ぐことはできます。
卵子の数は「AMH検査」で知ることができる
年齢とともに卵子の数は減っていきますが、卵子の数はとても個人差があるものです。現在の自分の体内に卵子がいくつあるかを知ることは今後の妊娠の可能性に重要な要素となります。
卵子の数を測る検査としてAMH検査があります。AMHは抗ミュラー管ホルモンといって、原子卵胞の中で発育している卵子の数が多ければ多いほど血液中のAMHの値も大きくなるという特徴があります。AMH検査は婦人科や不妊クリニックで受けられます。検査自体は血液検査で、月経の周期によって値が変化することはないので月経中や排卵の時期などに関わらず受けることができます。
渋谷駅から徒歩4分、宮下公園向かいのcocotiビル5階にあるグレイス杉山クリニックSHIBUYAでもAMH検査を受けることができます。料金は初診料が3,300円(税込)、AMH検査が7,700円(税込)です。
また東京都ではプレコンセプションケア(性や妊娠に関する正しい知識を身に付け健康管理を促すこと)に関する講座(TOKYOプレコンゼミ)を受講することで、AMH検査などの妊娠に関する各種検査に助成金がでます。(女性は上限3万円、男性は上限2万円)
グレイス杉山クリニックSHIBUYAはTOKYOプレコンゼミの登録医療機関です。※女性検査のみ
気になるピルの疑問④|ピル服用中でもAMH検査はできる?
AMH検査では、ピルを飲んでいると数値が20%ほど低くなると言われています。正確な値を見たい場合は、1ヶ月くらい前にピルの服用をやめてから検査を受けることをおすすめします。
大体の目安が知りたいということであれば、ピル服用中でも検査は可能です。休薬期間から卵子凍結のステップをスタートできるので、早めにクリニックにご相談ください。
気になるピルの疑問⑤|卵子凍結をするにはいつまでにピルの服用をやめればいいの?
先ほどご紹介してきたように、卵子の数が1番多いのは生まれたばかりの時であり、年齢を重ねるごとに卵子の数は減っていく一方です。卵子の数に注目していますが、実は体が老化するのと同様に卵子も少しずつ老化が進んでいくことがわかっています。妊娠のしやすさに卵子の数も気になりますが、卵子の年齢も大きく関係していると言われています。
将来の妊娠のために今できるアクションの1つの選択肢として、卵子を若いうちに凍結保存することができます。卵子が若ければ母体つまり体の年齢が妊娠の適齢期を過ぎていても、妊娠出産率が高いというデータがあります。もちろん若ければAMHの値も高く、卵子凍結を行う際に一度で多くの卵子を採卵できる可能性も高いです。
卵子を若いうちに保存しておくことで将来の不妊治療の成功率を高めることができます。具体的には、若い年齢の卵子であれば40代の体外受精による出産率は20代と大きく変わりません。
卵子凍結はピルをストップした直後でも可能です。飲んでいる最中に、次の休薬期間から卵子凍結をスタートできます。メリットとしては、ピルで卵胞の発育が抑えられたところからスタートすることになるので、卵子がそれぞれ揃った状態からスタートできます。また、仕事などが忙しくて、「採卵はこの日しか難しい」という人はピルで調節します。
デメリットは、ピルによって発育が抑えられているので、発育を促す注射の回数が増える可能性があります。ピルをやめてクリニックにいらっしゃる場合は、ピルの停止から一ヵ月後の生理の時に来てもらえれば、その周期でスタートできるのか相談できます。
卵子凍結保管サービスは「Grace Bank」がおすすめ
卵子凍結保存サービスを行なっているGrace Bankは国内最大級のバンクで、確かな実績を持った経験豊富な有名不妊治療クリニックと提携しています。
また凍結した卵子は臍帯血バンクのステムセル研究所と提携し、今まで20年以上無事故を誇る専用大型タンクで一括管理をしています。
保管施設は地震や津波に強いエリアに設置され、停電対策も万全、安心のシステムで大切な卵子を保管します。
Grace Bankでは卵子凍結に関する無料のセミナーも開催しています。少しでも卵子凍結について気になりましたら、ぜひ一度セミナーにご参加ください。
名倉 優子 なぐら ゆうこ
日本産科婦人科学会専門医
グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)
杉山産婦人科の医師・培養士による技術を用いた質の高い診療を提供。
将来の妊娠に備えたプレコンセプションケアと卵子凍結にフォーカスした診療。
スタッフは全員女性。明瞭な料金設定も人気!