2022年4月から保険適用となり、注目を集める不妊治療について解説します。
また、2023年度から東京都が健康な女性の卵子凍結の支援を開始しました。京都に住む18歳から39歳までの女性に対し、卵子凍結に係る費用の助成額は合計で30万円(最大)、凍結卵子を使用した生殖補助医療の助成額は、凍結卵子を融解し受精を行った場合に1回につき上限25万円(最大6回まで)支払われます。そちらについてもご紹介します。
目次
不妊の基礎知識 「不妊とは?」「原因は?」
妊娠を希望するカップルが、避妊せずにセックスしているにも関わらず一定期間妊娠しない場合、「不妊症」と定義します。不妊の原因としては、以下にありますように、女性、男性それぞれに原因がある場合があります。また、原因は単独とも限らず、複数が組み合わさったり、原因が不明の場合もあります。さらに、男女共通の不妊の原因として挙げられる事として、加齢に伴う「卵子や精子の老化」があります。
女性の主な不妊原因
- 卵子が育たない、排卵しないなどの排卵障害
- 卵子や受精卵の通り道である卵管に障害がある
- 受精卵の着床を妨げる着床障害
- 子宮の奇形、子宮筋腫などの子宮の問題
- 卵管周囲の癒着を引き起こす子宮内膜症 など
男性の主な不妊原因
- 精液内に精子が1個もない無精子症
- 精子の数が少ない乏精子症
- 精子の運動性が低い、精子無力症
- 精子が精路を通過できない精路通過障害
- 勃起しない、勃起しても射精できない性機能障害 など
2022年4月から保険適用になった不妊治療、どんな検査や、治療がある?
2022(令和4)年4月から、不妊治療の治療費が保険適用に(3割負担)なり、不妊治療がより注目を集めているのはご存知でしょうか。不妊治療の一般的な流れを簡単にご紹介しますと、男女ともに原因を突き止めるための検査から始まります。
女性の検査は、ホルモン検査、超音波検査、卵管造影検査等で、月経周期に合わせて行われることもあり、1~3ヶ月かかるといわれます。男性は、基本的には精液検査のみで随時行うことができます。不妊検査により、原因がわかったら、それに合わせて治療を行っていきます。
主な治療法としては、「一般不妊治療」と呼ばれる、自然妊娠をサポートする治療法か「高度不妊治療・生殖補助医療」という卵子と精子を体外で受精させ受精卵を作る、高度な医療技術が必要になる治療法があります。前者の「一般不妊治療」では、排卵誘発剤を使うタイミング法、卵管の詰まりをとる通水・通気治療、ホルモン療法、人工授精などがあります。後者の「高度不妊治療」は、受精方法の違いで体外受精と顕微授精に二分されます。
なお、保険適用にあたっては、治療開始時における女性の年齢制限などにご注意いただきたいと思います。また詳細については、以下をご確認ください。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/funin-01_00004.html
参考:https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/funin
不妊を予防するためには?「卵子の老化」は予防できる?
病気が原因で不妊になっている場合は、検査や治療をすることが最も大切になってきます。では、冒頭にも触れました、不妊の原因の一つに「加齢」を上げましたが「加齢による不妊」を予防する方法はないのでしょうか?
一言に「加齢」と申しますが、年齢がどのように、特に女性の妊娠に影響するのか気になるところですよね。この点において、「卵子の老化」という言葉をお聞きになったことのある方もいらっしゃるかもしれません。「卵子の老化」をもう少し医学的に考えてみますと、卵子の量や質が低下するということになります。卵子の量という点では、卵子のおおもととなる原子卵胞は、女性が胎児のうちにすでにできていて、その数は約200万個といわれ、細胞分裂して数がふえることができない非常に特殊な細胞のため、一度できたあとは、数が減り続けます。20代では10万個、30代では2~3万個、閉経時には1,000個まで減少するといわれています。
卵子の質という点では、女性は35歳頃を境に、卵子の染色体分離が正常に働かないために妊娠・出産に至る可能性が低くなることを言います。このように、卵子の量や質が低下=卵子の老化ということが、お分かりいただけたと思いますが、残念ながら加齢を止めることはできません。しかしながら、何らかの形で卵巣機能をアップしたり、少しでも老化のスピードを抑えるといったアプローチで予防できる方法はないのでしょうか。
日頃の何気ない生活習慣を大切にして、女性の卵巣機能UP・男性の精巣機能UPを目指す
【男性】ブリーフよりトランクスで
男性の場合、睾丸を守ることが大切になります。というのも、精子は熱に弱いため、睾丸の温度が上がると、精子数が減るだけではなく、動きが悪い、奇形だったりする精子が増えるおそれがあるため、睾丸を守る必要がでてきます。例えば、ひざの上でパソコン作業などをしますと、睾丸を温めてしますし、サウナや長風呂も同様に避けましょう。また、睾丸を締めつけたり、温めすぎないようにするためにも、下着はブリーフよりトランクスがおすすめです。
【女性】冷え予防は根本から行って
からだの冷えに気を付けることが大切です。からだの冷えは、血行不良が原因で、血流が悪いと、酸素や栄養、ホルモンの運搬に支障が出るうえ、特に下半身が冷えると、卵巣や子宮の機能が低下してしまいます。カイロやタイツといった対処法も、もちろん必要ですが、一時的な効果に終わってしまうこともあります。適度な運動や食生活を見直すなど、根本から冷えを予防できる体質をめざし、卵巣や子宮の力を向上させていきましょう。
【男女ともに】健康的な生活で
健康的な生活は、老若男女にとって大きなテーマであると思います。特に現代社会における20代・30代の世代にとっては、仕事の都合で夜遅い、食事は栄養のことまで考えられない、このようなご事情も多いかと思います。しかし、健康的な生活は新陳代謝を高め、生殖器官の働きが活発化することで、卵巣や精巣機能が向上し、質の良い卵子や精子がつくられることにつながります。この機会に、より「健康的な生活」にシフトしてみませんか?
卵子凍結保存
仕事のキャリアや、人生のプランを考えたとき、今妊娠することは難しい、しかしこのコラムでお伝えしたような、卵子の老化に対して懸念を持つという皆様に朗報です。それは、若く妊孕力の高いうちに卵子を凍結保存しておき、将来の体外受精の成功率を高める卵子凍結保存サービスです。
卵子が若ければ、母体が妊娠適齢期をすぎても、妊娠出産率が高いというデータがあります。また、卵子が若ければ、40代の体外受精による出産率は20代と大きく変わりません。(米CDC、2021)
卵子凍結保存の仕組みを簡単にご紹介いたします。まず、不妊治療クリニックでさまざまな検査を行ったのち、年齢や卵巣機能、体の負担や希望を考慮して、排卵誘発を行い採卵します。その後、耐凍剤濃度の高い溶液に卵子をひたし、マイナス196℃の超低温で凍結し、液体窒素タンクの中で保管します。ちなみに、卵子凍結までの期間は、状況により異なりますが、通院回数は約5~6回と言われています。費用は、一回の検査・排卵・凍結費用に30万から50万、保管費用は、初期費用に加えて年間3~5万円かかります(状況、クリニックにより変動します)。
グレイスバンクでは、全国に組織化された、国内最高峰の厳選クリニックを組織化しております。また排卵した後の卵子は、20年以上、さい帯血の凍結保管システムを無事故で運用してきたステムセル研究所と連携し、安心の保管システムを構築しています。
東京都の卵子凍結に係る費用の助成について
東京都は、健康な女性の卵子凍結について自治体として最大30万円の支援を開始すると発表しました。これまで東京都では、がんの治療のために女性が妊娠するための力(妊孕性:にんようせい)を温存する方法として、卵子凍結への支援をしていましたが、健康な女性の将来への備えとしての卵子凍結を支援するのは初めてです。東京都が、女性の出産とキャリアの両立が難しい点などを考慮して、女性の選択肢を増やすために支援を開始したことは、とても画期的なことです。
また、実際に凍結した卵子を使用する際にも費用がかかりますが、「凍結卵子を使用した生殖補助医療への助成」を使用すれば、卵子融解・授精・胚培養・胚凍結・胚移植・妊娠確認までの費用にも助成がでます。(※1回につき上限25万円(最大6回まで))
詳しくはこちらの記事をご確認ください。
まとめ
保険適用も始まり、より身近なものとなった不妊治療ですが、日頃から健康的な生活に気を付けることが、男女ともに大切になってきます。また、卵子凍結保存についても将来の妊娠のための選択肢のひとつとしてぜひご検討ください。
▼参考文献
- はじめての妊活スタートブック 赤ちゃんがほしいときに読む本 ナツメ社
- ふたりではじめる おいしい妊活レシピ 大泉書店
名倉 優子 なぐら ゆうこ
日本産科婦人科学会専門医
グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)
杉山産婦人科の医師・培養士による技術を用いた質の高い診療を提供。
将来の妊娠に備えたプレコンセプションケアと卵子凍結にフォーカスした診療。
スタッフは全員女性。明瞭な料金設定も人気!