現代では様々な事情から、必ずしも若いうちに出産できるわけではありません。しかし、卵子は年齢を重ねると共に老化してしまい、質が低下した卵子では妊娠確率が下がってしまいます。
「卵子凍結」は、出産を希望する女性が 将来の妊娠に備えて、「若く妊娠する能力の高い卵子を凍結保存する」という有効な方法です。凍結卵子は将来、解凍して体外受精に使用できます。「卵子凍結」は女性が年齢を重ねた時においても、自分の若い卵子で体外受精ができるため、将来不妊治療をする際に成功率を高められることが期待できます。
しかし、卵子凍結はどの年齢でも、採取したり保存したりできるわけではありません。年齢を重ねることで卵子の質が低下し、妊娠確率が低くなることや、高齢出産によるリスクが高くなることから、卵子凍結には年齢制限があります。その年齢制限には、 「採卵」と「保管」の2種類の年齢制限があります。
以下の項目で、「採卵」「保管」の年齢制限、また、卵子凍結で妊娠できる年齢と確率について見ていきましょう。
目次
卵子凍結とは?
卵子凍結とは、若く妊孕性の高いうちに卵子を凍結保存し、将来の妊娠(体外受精)確率を高める方法として注目を集めています。
参考)Grace Bank「卵子凍結の意義と可能性とは(動画)」
参考)公益社団法人 日本産婦人科学会 ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ
https://www.jsog.or.jp/modules/committee/index.php?content_id=302
卵子の状態は実際に採卵しないとわかりません。採卵した直後の卵子は以下の3つに分類され、このうち卵子凍結できるのは成熟卵子のみです。
成熟卵子 | 凍結保管可能 | 35歳以下の場合、採取された卵子の90%程度が成熟卵と予想されます。個人差があり、未成熟卵も成熟卵と同様に多く取れてしまう方もいます。 |
未成熟卵子 | 採卵後、数時間で成熟卵子になれば凍結保管が可能 | 採卵した卵子の10~15%程度が未成熟卵子です。 |
変性卵子 | 凍結保管不可 | 受精能のない変性した卵子です。採卵した卵子の5%以下ですが、38歳を越えると変性卵の割合が著明に増加します。 |
続いて、凍結卵子を使用した際の妊娠率を見てみましょう。
◆凍結卵子を融解した時の卵子生存の確率
- 融解後の卵子生存の確率・・・80〜95%
- その後、精子を注入した場合の受精率・・・60〜80%
◆未受精卵融解後に、卵子が生存、受精し、質が良好な受精卵が確保できた場合に、卵子10個あたりで妊娠できる確率
こちらは、採卵時の年齢により割合が異なります。
- 30歳以下・・・80%程度
- 31〜34歳・・・75%程度
- 35〜37歳・・・53%程度
- 38〜40歳・・・30%程度
- 41歳以上・・・20%以下
卵子凍結によって保存した卵子を使って妊娠・出産するためには、卵子と精子とを身体の外で受精する体外受精が必須となります。凍結した卵子は融解の過程で5~20%の割合で変性することがあります。また、融解後、精子と受精すると受精卵(胚)になりますが、その受精卵が良好胚に発育するとは限りません。良好胚が子宮に着床してはじめて「妊娠」となります。
卵子の生存率とその後の着床率を考えると、なるべく若い年齢で卵子凍結を行い、10個以上~できれば20個以上の未受精卵を凍結保存しておくことが望ましいということがわかります。
参考)https://grace-sugiyama.jp/about_freezing
卵子凍結の年齢制限は「採卵」「保管」の2種類ある
前項でお伝えしたように卵子凍結の年齢制限には、「採卵」の年齢制限と、「保管」の年齢制限の2種類があります。卵子の質を良い状態で保存することと、高齢出産のリスクを考慮してこのような年齢制限を設けています。
それでは具体的に見ていきましょう。
「採卵」の年齢制限は40歳未満
卵子の元となる卵胞細胞は、年を重ねると細胞質が老化し、妊娠する力が急激に低下します。排卵が行われても染色体異常があったり、着床しても流産してしまったりという事が多くなってしまいます。残念ながら、卵子の質低下は、35歳頃から加速するといわれています。
40歳くらいまでが妊娠可能性があるとされる年齢なので、 採卵の年齢制限を40歳未満または40歳前後とするクリニックが多くなっています。
国内最大級の凍結卵子保存バンクである「Grace Bank」では、基本的には採卵をするご年齢を満40歳の誕生日までとさせていただいております。それ以上のご年齢でご希望される場合でも専門医の判断により実施できることもありますので、お気軽にご相談ください。
「保管」の年齢制限は50歳未満
年齢のリスクを考慮して若い卵子を凍結保存し、体外受精の確率アップに備えても、妊娠・出産に耐えられる母体年齢には限りがあります。妊娠することが技術的に可能でも母体への負担を考慮してのことです。
そのため、母体や胎児のリスクを考慮して、卵子凍結の保存期限を45〜50歳までとするクリニックが多くなっています。
「Grace Bank」では、本人の意向により満50歳の誕生日まで凍結した卵子を保管することができます。ただし、実際に融解して使用する際には、母体の安全を考慮した上で専門医が実施の可否を判断しますので、50歳まで体外受精が行えることを保証するものではございません。あらかじめご了承ください。
※自社HP FAQより内容抜粋
凍結卵子の保存は「1年更新」
技術の進歩により、卵子の質を劣化させないまま長期間の保存が可能になりました。過去には約14年間凍結保存した卵子から出産した事例もありますが、凍結卵子の保存は、1年毎に更新を行っているクリニックが多いです。
可能であれば、1年ごとの更新時に卵巣年齢ホルモン(AMH)検査および超音波検査を行い、未来の妊娠の可能性について受診いただくことが望ましいでしょう。
凍結卵子保管サービスを提供する「Grace Bank」も凍結卵子の保存は1年更新となっています。「Grace bank」では、これまでクリニック内で小型のタンクに保管されてきた凍結卵子を、液体窒素の自動供給システムと24時間の温度センサーによるモニタリングと監視システムを備えた大型タンクに一括保管することにより、最新鋭の保管体制とコストの削減を実現しました。凍結卵子保管料は使いやすい価格でサービスを提供しています。
また、「Grace Bank」は確かな実績を持った経験豊富な有名不妊治療クリニックと提携し、将来の体外受精時には、凍結卵子をどの提携クリニックでも利用可能です。
凍結卵子の保管方法
採卵した卵子は、高濃度の凍結保護剤を利用し細胞内の水分を除去した上で、固体と液体の中間状態を保ちながら高速で凍結する急速ガラス化法により凍結します。急速ガラス化法により凍結した上で、マイナス196℃の液体窒素内に保存することにより、半永久的にそのままの状態を保つことができます。
凍結保管には専用の容器を用います。1本のデバイスと呼ばれる容器に、最大3個の卵子が収容可能です。
凍結卵子の使用方法
凍結した卵子を使用する場合、パートナーの精子が必要となります。パートナーが決定した後の流れは以下のとおりです。
1 | 卵子の融解 | 凍結した卵子を溶かします |
2 | 受精 | 融解した卵子とパートナーの精子を受精させます |
3 | 培養 | 受精卵を胚移植ができる段階まで管理し育てます |
4 | 胚移植 | 受精卵を子宮の中へもどします |
5 | 妊娠判定 | 子宮にもどした受精卵が着床し、妊娠しているかどうか、血液中のhCGという着床後に胎盤になる部分から 分泌するホルモンを測定し、判断します |
凍結した卵子を使用して妊娠するまでの順調な流れは、上記のように進んでいきます。また、卵子の融解から胚移植までは、クリニックごとに決められた料金がかかります。
参考)https://grace-sugiyama.jp/posts/magazine-20230705aftereggfreezing
「Grace Bank」で保管した凍結卵子を不妊治療で利用する場合は、マイページから凍結卵子移送申請をします。その後、「Grace Bank」が移送の手配を行います。東京都内であれば約1週間ほどで利用されるクリニックへ凍結卵子を安全な状態でお届けします。凍結卵子は、採卵したクリニックまたは弊社提携クリニックでの利用を推奨しますが、それ以外の希望の不妊治療クリニックでも利用可能です。
凍結卵子の破棄について
凍結卵子の破棄や保管を終了するには、更新料支払い前までに凍結しているクリニック等に連絡をします。「Grace Bank」では更新料の支払いの2ヶ月前までに手続きが必要です。
凍結卵子で妊娠できる年齢と確率は?
不妊治療で行われる一般的な体外受精(自己卵子=実年齢)は、卵子の老化などの原因で、年齢が高くなるにつれて妊娠・出産率が下がっていきます。(30歳以下では45%程度→40歳以上では15%まで低下)
しかし、若いドナーから卵子提供を受けた場合(つまり若い卵子を提供された場合)、40歳でも出産率が大きく変わらないというデータも報告されています。
つまり、卵子の妊孕性(にんようせい:妊娠する力)の高い20~30代前半くらいまでに卵子凍結をしておけば、40歳前後になって体外受精をする際に、高い成功率が期待出来るということになります。
卵子が若ければ40代の体外受精による出産率は20代と大きく変わらないことがグラフから読み取れます。(米CDC、2021)
※自社HPより内容抜粋(https://gracebank.jp/guide/#p_guide03)
東京都が健康な女性の卵子凍結の支援を開始
2023年度から開始された東京都の「卵子凍結にかかる費用助成」は、将来の妊娠に備える選択肢の一つとして、「卵子凍結に係る費用」及び「凍結卵子を使用した生殖補助医療」を補助する助成制度です。これまで東京都では、がんの治療のために女性が妊娠するための力(妊孕性)を温存する方法として、卵子凍結への支援をしていましたが、健康な女性の将来への備えとしての卵子凍結を支援するのは初めてです。対象は東京都に住む18歳から39歳までの女性で、採卵準備までの投薬・採卵など卵子凍結費用に対し、最大で30万円の支援が受けられます。
まとめ
ここまでのお話をまとめますと、卵子凍結の年齢制限は目安として
- 「採卵」については、40歳前後まで
- 「保管」については、50歳前後まで
となります。
不妊治療となった時に備えて、妊娠確率を高めるために1歳でも若く妊孕性の高いうちに卵子を凍結保存しておくことを推奨します。(理想は20~30代前半までの卵子凍結)
また、凍結卵子を使用した体外受精は、母体や胎児の妊娠出産リスクを考えると、45歳前後までが目安となります。これらのことから、将来に備えて若いうちに卵子を凍結保存しておけば、年齢を重ねることによる体外受精成功率の低下を防ぐ可能性が高くなることが期待できます。
「Grace Bank」は国内最大級の卵子凍結バンクであり、有名不妊治療専門クリニックと連携して女性の不妊治療に真摯に向き合っております。20年以上無事故の安心保管システム、卵子凍結だけでなく生殖医療全般について、将来の出産を考える全ての女性が利用しやすい医療プラットフォームの構築で、女性が願うあらゆるライフプランのお手伝いをしてまいります。
▼参考サイト
- https://www.haramedical.or.jp/content/egg/possible-ages
- https://telling.asahi.com/article/14236630
- https://ivf-kyono.com/column/post-5193
- https://gracebank.jp/company/
名倉 優子 なぐら ゆうこ
日本産科婦人科学会専門医
グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)
杉山産婦人科の医師・培養士による技術を用いた質の高い診療を提供。
将来の妊娠に備えたプレコンセプションケアと卵子凍結にフォーカスした診療。
スタッフは全員女性。明瞭な料金設定も人気!