卵子凍結とは、将来体外受精することを見据えて、未受精の卵子を凍結保存することです。若いときに卵子を残しておくことが、将来の妊娠の可能性を拡げる選択肢の一つとなります。卵子凍結後、パートナーができ、凍結した卵子で妊娠を望む場合は、卵子を融解し、顕微受精を行っていきます。今回は卵子凍結をした「その後」の流れから、体外受精の方法、係る費用、注意点について解説します。
目次
卵子凍結とは?妊娠率は?
卵子凍結とは、将来の体外受精を見据えて未受精卵を凍結する技術で、もともとは悪性腫瘍や白血病等で抗がん剤治療や放射線療法を受ける若年女性患者に対し、治療前に卵子や卵巣を凍結保存しておくことで治療後の生殖能力を維持するために行われてきました(医学的適応による卵子凍結)。米国生殖医学会は、凍結融解卵子由来で生まれた子供に染色体異常、先天異常、および発育障害のリスクが増大することはないという見解を2012年に発表、2013年には日本生殖医学会がガイドラインを正式決定し、健康な未婚女性が将来の妊娠に備えて卵子凍結を行うことを認めています(社会的適応による卵子凍結)。
卵子凍結を行う際には、確実に卵子を採取するため、排卵誘発剤を使って卵巣刺激を行い、いくつかの卵胞を育てて採卵に臨むことで、1回で複数個の卵子を採取することができます。採卵の際には、超音波画像で卵巣を確認しながら、腟の壁越しに卵巣内の卵胞を針で穿刺し、卵胞液ごと吸引・回収します。採卵した卵子は、高濃度の凍結保護剤を利用し、従来の方法に比べて細胞内の水分をより多く除去した上で、固体と液体の中間状態を保ちながら高速で凍結する急速ガラス化法により凍結します。急速ガラス化法により凍結した上で、マイナス196℃の液体窒素内に保存することにより、半永久的にそのままの状態を保つことができます。将来妊娠を希望する際には、凍結しておいた卵子を融解して顕微授精を行い、 得られた受精卵(胚)を培養して胚移植します。
採取された卵子のうち、凍結保存することが可能な卵子は成熟卵子のみです。35歳以下の場合、採取された卵子の90%程度が成熟卵と予想されます。(個人差があり、未成熟卵も成熟卵と同様に多く取れてしまう方もいます。)
また、成熟卵子でも採卵時の年齢により、受精率、妊娠率に差があります。
【凍結卵子を融解した時の卵子生存の確率】
- 融解後の卵子生存の確率 80〜95%
- 融解後の卵子に、精子を注入した場合の受精率 60〜80%
【凍結卵子を融解後に、卵子が生存・受精(顕微授精)し良好な受精卵が確保できた場合の受精卵1つあたりの妊娠率】
- 30歳以下・・・35%程度
- 31~34歳・・・30%程度
- 35~37歳・・・25%程度
- 38~39歳・・・20%程度
- 40歳以上・・・15%以下
参考)杉山産婦人科
卵子凍結をした「その後」は?
卵子凍結後、パートナーができ、凍結した卵子で妊娠を望む場合は、卵子を融解し、顕微受精を行っていきます。凍結卵子を使用した体外受精を行う際には精子が必要となり、その精子の提供者は基本的には婚姻関係、または内縁の関係であることが条件となっています。
凍結卵子を使用した体外受精を希望される場合は、数ヶ月前にクリニックにご相談することをおすすめします。相談時の年齢やパートナーの状況(※)によっては、凍結卵子の使用以外の治療法を含めて複数の選択肢からご希望に沿ったプランの提案を受けることができます。
※不妊の原因は男性側にもあり得ます。事前に男性の精液検査をおすすめします。精液検査により精子の量や精子の濃度、運動率、精子の正常形態率などがわかります。無精子症の場合、卵子凍結による体外受精は不可能となります。
クリニックに相談したうえで、凍結卵子の使用が決まったら、凍結卵子の出庫の手続きに移ります。凍結卵子の使用予定2ヶ月前を目安に出庫先に連絡をいれましょう。
顕微授精やその他の不妊治療の方法と費用例
不妊治療は顕微授精をはじめとする4つの方法があります。
「一般不妊治療」にはタイミング法・人工授精、「高度不妊治療」には体外受精・顕微受精があります。
厚生労働省が2020年度に「不妊治療の実態に関する調査研究」を公表し、不妊治療にかかるそれぞれの1回あたりの費用の平均が明らかになりました。一部2022年から始まった保健適用前の値段となりますが参考にしてください。
タイミング法|約数千円〜2万円
不妊治療の初めのステップで、受精しやすい日を狙って性交を行い妊娠を目指します。女性の月経のサイクルの中で、ちょうど排卵する2日前~当日あたりが1番妊娠しやすいと言われているので、病院にて尿中のホルモン量やエコーで卵胞の大きさを測定し排卵日を特定します。場合により排卵誘発剤を使用します。
排卵誘発剤 |約数千円〜2万円
排卵誘発剤とは、卵巣を刺激して卵胞の成熟と排卵を促す飲み薬や注射のことです。もともと排卵に何か不調があるときや、人工授精や体外受精を行うときに併用することで妊娠率を上げる可能性があります。
人工授精|約1万円〜3万円
採取した精液の中から運動機能が良好な精子を選び、最も受精しやすい日に子宮内に注入します。
体外受精|約20万円〜60万円
女性から卵子を取り出し、精子と体外で受精させ、数日後に受精卵を子宮内に戻します。
顕微授精|約30万円〜70万円
体外受精で卵子と精子がうまく受精しない場合には、卵子に直接精子を注入し受精させます。凍結卵子を使用する際は顕微授精となります。
卵子凍結や不妊治療に保険は適用される?助成はあるの?
令和4年から人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」については保険適用となり、経済的な負担が大幅に軽減されました。
なお、東京都では卵子凍結に係る費用に最大30万円の助成があります。
体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」の保険診療には年齢と回数の制限がありますのでご注意ください。
【年齢制限】
- 治療開始時において女性の年齢が43歳未満であること
【回数制限】
- 初めての治療開始時点の女性の年齢が40歳未満:通算移植回数が6回まで(1子ごとに)
- 40歳以上43歳未満:通算移植回数が3回まで(1子ごと)
また、医療費控除や医療費が高額になった場合には高額療養費制度の対象にもなります。
参考)こども家庭庁 不妊治療に関する取組
https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/funin
東京都では凍結卵子を使用した生殖補助医療に関する費用を助成しています。凍結卵子を融解し、受精を行った場合に1回につき上限25万円が助成されます。こちらも年齢制限として「1回の生殖補助医療」の開始日における妻の年齢が43歳未満の夫婦(事実婚を含む。)であるなどの要件があります。詳しくは東京都福祉局のHPをご確認ください。
参考)東京都福祉局 凍結卵子を使用した生殖補助医療への助成
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/ranshitouketsu/shiyou/gaiyou.html
凍結卵子保管サービスはGrace Bankがおすすめ
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- 保管施設は地震や津波に強いエリアに設置され、停電対策も万全、安心のシステムで大切な卵子を保管
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Grace Bankでは安全面の観点で大型タンクの開閉を原則月に1回の運用としているため、申請から移送までに最長2ヶ月程度のお時間をいただく事がございます。
また、Grace Bankでは凍結卵子の出庫時に移送費用として約3万円~10万円かかります。液体窒素を使ったドライジッパーで国内の提携クリニックに安全に凍結卵子をお届けします。
まとめ
不妊治療にとって重要なのは「早めに」行動することです。
卵子も精子も加齢によってその質、妊孕能(=妊娠する力)が低下することがわかっているので、できるだけ若いうちに男女ともに自分の状態を検査しておくとこをおすすめします。少しでも不妊治療について気になった段階でパートナーとよく話し合い、まずは検査だけでも受けてみましょう。今は出産に至るまでの医療も発達してきています。さまざまな選択肢もありますので是非一歩踏み出してみてください。
▼参考HP
- 杉山産婦人科 https://www.sugiyama.or.jp/reproduction/consult/unfertilized-egg
- 日本生殖医学会 http://www.jsrm.or.jp/public/index.html
名倉 優子 なぐら ゆうこ
日本産科婦人科学会専門医
グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)
杉山産婦人科の医師・培養士による技術を用いた質の高い診療を提供。
将来の妊娠に備えたプレコンセプションケアと卵子凍結にフォーカスした診療。
スタッフは全員女性。明瞭な料金設定も人気!