GLP-1受容体作動薬を妊娠前に服用することに不安を感じていませんか? GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療薬として効果的ですが、近年ダイエット目的で服用している女性も増えています。女性の場合、GLP-1受容体作動薬の妊娠への影響が気になる方もいるでしょう。この記事では、GLP-1受容体作動薬の作用機序から妊娠前の服用におけるリスク、注意点、そして妊娠を希望する際の医師への相談事項まで、専門家の視点で解説します。オゼンピック、リベルサス、ビクトーザなどの具体的な薬剤の種類や特徴についても解説します。
目次
GLP-1とは?
GLP-1は、グルカゴン様ペプチド-1 (Glucagon-like peptide-1) の略称です。これは、私たちの体内で自然に分泌されるホルモンの一種で、主に小腸から分泌されます。食事を摂取すると分泌量が増加し、血糖値を下げるインスリン分泌を促進する働きがあります。
GLP-1は、主に膵臓のβ細胞に作用し、血糖値に応じてインスリン分泌を促進します。また、膵臓のα細胞からのグルカゴン分泌を抑制し、肝臓からの糖新生を抑制することで血糖値の上昇を抑えます。さらに、胃内容排出速度を遅延させることで食後血糖値の急上昇を防ぎます。これらの作用により、食後高血糖および空腹時高血糖の両方を改善します。
GLP-1受容体作動薬とは
GLP-1受容体作動薬は、このGLP-1と同じような働きをするように開発された薬です。天然のGLP-1は体内で短時間で分解されてしまうため、効果を持続させるために、分解されにくいように改良されています。2型糖尿病の治療薬として使用されており、注射剤と経口剤があります。GLP-1は血糖値が正常範囲内であれば、インスリン分泌を促進する作用は弱くなります。そのため、低血糖のリスクが低いという特徴があります。
GLP-1受容体作動薬が妊娠前に与える影響とは?
GLP-1受容体作動薬と妊娠前のリスク
GLP-1受容体作動薬を服用中に妊娠した場合ののリスクについては、明確な結論が出ているわけではありません。動物実験では催奇形性は認められていないものの、ヒトにおけるデータは限られています。そのため、潜在的なリスクを考慮し、妊娠を希望する場合は、医師と相談の上、服用を中止するか、他の治療法に切り替えることが推奨される場合もあります。また、GLP-1薬剤の服用によって、吐き気や嘔吐などの副作用が現れる場合があり、妊娠初期のつわりと症状が似ているため、妊娠の兆候を見逃す可能性も考慮する必要があります。
GLP-1受容体作動薬服用中の妊娠の可能性について
GLP-1受容体作動薬を服用中に妊娠した場合、速やかに医師に報告することが重要です。医師は、母体と胎児の状態を慎重に評価し、GLP-1受容体作動薬の服用継続の可否、または他の治療法への切り替えについて判断します。妊娠中の薬剤服用については、常に最新の情報を医師から得るように心がけましょう。
GLP-1受容体作動薬を妊娠前に服用する際の注意点
GLP-1受容体作動薬の服用を検討している方で、近い将来妊娠を希望する場合は、必ず事前に医師に相談してください。妊娠の可能性や希望時期、現在の健康状態、服用中の他の薬剤などを医師に伝え、GLP-1受容体作動薬の服用が適切かどうか、他に適切な治療法がないかなどを相談しましょう。自己判断で服用を開始したり、中止したりすることは危険です。
前述のような背景より、GLP-1受容体作動薬の服用中は、適切な避妊方法をとる事が推奨されます。GLP-1受容体作動薬の胎児への影響はまだ十分に解明されていないため、妊娠中の服用は推奨されていません。もし、GLP-1受容体作動薬の服用中に妊娠が判明した場合は、すぐに医師に相談してください。
GLP-1受容体作動薬の種類と特徴
GLP-1受容体作動薬には、注射剤と経口剤があります。それぞれの種類と特徴について解説します。
注射剤
注射剤は、皮下に注射することで効果を発揮します。効果の持続時間が長く、週1回投与の製剤も存在するため、服薬アドヒアランスの向上に繋がることが期待されます。
オゼンピック
オゼンピックは、週1回投与のGLP-1受容体作動薬です。2型糖尿病治療薬としてだけでなく、同成分のウゴービは肥満症治療薬としても保険適用薬剤として承認されています。主な副作用として、悪心、嘔吐、便秘、下痢などが報告されています。
ビクトーザ
ビクトーザは、1日1回投与のGLP-1受容体作動薬です。持続性GLP-1受容体作動薬に分類され、血糖コントロールの改善効果が期待できます。主な副作用として、悪心、嘔吐、便秘などが報告されています。
経口剤
GLP-1受容体作動薬経口剤は、注射が苦手な患者さんにとって服用しやすいというメリットがあります。ただし、注射剤と比較して効果の発現が遅い場合もあります。
リベルサス
リベルサスは、1日1回服用するGLP-1受容体作動薬です。主な副作用として、悪心、嘔吐、便秘、下痢などが報告されています。低血糖のリスクは低いとされていますが、他の糖尿病治療薬との併用時には注意が必要です。服用方法に特徴があり、起床時に少量の水(15mL以下)とともに服用し、服用後30分は飲食、他の薬剤の服用を控える必要があります。
【専門医のアドバイス】GLP-1受容体作動薬と妊娠について
GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病や肥満の治療において有効な薬剤ですが、妊娠前や妊娠中の服用については、専門家である医師との綿密な相談が不可欠です。妊娠を希望する場合は、必ず事前に医師に相談し、GLP-1受容体作動薬の服用継続の可否、代替薬への変更、または服用中止の必要性などを慎重に検討してください。自己判断で服用を中止したり、継続したりすることは大変危険です。また、妊娠の可能性がある場合も同様に、速やかに医師に報告し指示を仰いでください。
GLP-1受容体作動薬の服用中に妊娠が判明した場合、胎児への影響を最小限に抑えるため、医師の指示に従うことが重要です。妊娠中の糖尿病は、母体と胎児の両方に様々なリスクをもたらす可能性があります。適切な血糖コントロールを行うことで、これらのリスクを軽減することができます。医師は、個々の状況を考慮し、最適な治療方針を決定します。
GLP-1受容体作動薬は、胎盤を通過する可能性があるため、胎児への影響については未だ十分に解明されていない部分もあります。そのため、妊娠中のGLP-1受容体作動薬の服用は、母体と胎児のベネフィットとリスクを慎重に比較検討した上で、医師の判断に基づいて行われるべきです。最新の研究データやエビデンスに基づいた情報提供を受けるようにしましょう。
GLP-1受容体作動薬の服用に関する相談窓口
GLP-1受容体作動薬に関する疑問や不安は、主治医に相談することが最善です。その他、薬剤師や、各製薬会社の相談窓口なども活用できます。信頼できる情報源から適切な情報を得ることで、安心して治療を継続することができます。
生活習慣の改善も重要
薬物療法だけでなく、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠などの生活習慣の改善も血糖コントロールやダイエットには非常に重要です。これらの生活習慣の改善は、妊娠前、妊娠中、そして産後も継続して行うべきです。医師や栄養士、その他医療専門家の指導を受けながら、健康的な生活習慣を身につけましょう。
家族のサポート
糖尿病の治療、特に妊娠前後の治療は、精神的な負担も大きいため、家族の理解とサポートが重要です。家族に治療内容や生活習慣の改善について説明し、協力を得られるようにしましょう。周囲のサポートは、治療継続の大きな力となります。
よくある質問
GLP-1受容体作動薬に関するよくある質問にお答えします。妊娠とGLP-1受容体作動薬に関する疑問を解消し、安心して治療を受けていただけるよう、専門家の監修に基づいた情報を提供します。
GLP-1受容体作動薬を妊娠中に服用できますか?
GLP-1受容体作動薬の妊娠中の安全性は確立されていません。妊娠中はGLP-1受容体作動薬の服用を一般的に推奨していません。 妊娠が判明した場合、速やかに医師に相談し、治療方針を決定する必要があります。母体の健康状態や胎児への影響を考慮し、個々の状況に合わせた適切な対応が必要です。
GLP-1受容体作動薬は胎児に影響しますか?
GLP-1受容体作動薬の胎児への影響については、まだ十分なデータがありません。動物実験では催奇形性は認められていませんが、ヒトにおける安全性は確立されていないため、注意が必要です。 妊娠の可能性がある場合、または妊娠を希望する場合は、必ず医師に相談してください。医師は個々の状況を評価し、最適な治療法を提案します。
妊娠を希望する場合は、GLP-1受容体作動薬の服用を中止すべきですか?
妊娠を希望する場合は、必ず事前に医師に相談してください。 GLP-1受容体作動薬の服用を継続すべきか、中止すべきか、あるいは他の治療法に切り替えるべきかは、個々の状況によって異なります。医師と相談の上、妊娠前から計画的に治療方針を決定することが重要です。自己判断で服薬を中止することは避け、専門家の指導に従ってください。
まとめ
GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の治療薬として効果を発揮しますが、妊娠前や妊娠中の服用については、安全性に関する十分な情報が確立されていない部分もあります。妊娠を希望する、あるいは妊娠の可能性がある場合は、必ず医師に相談し、GLP-1受容体作動薬の服用継続の可否や代替薬への切り替えなどを検討する必要があります。自己判断で服用を中止せず、専門家の指示に従うことが大切です。

名倉 優子 なぐら ゆうこ
日本産科婦人科学会専門医
グレイス杉山クリニックSHIBUYA (東京都渋谷区)
杉山産婦人科の医師・培養士による技術を用いた質の高い診療を提供。
将来の妊娠に備えたプレコンセプションケアと卵子凍結にフォーカスした診療。
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